研究課題/領域番号 |
16K17248
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
飯田 豊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (90461285)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メディア・イベント / メディア論 / 大阪万博 / 東京オリンピック |
研究実績の概要 |
2016年度に引き続き、日本におけるメディア・イベント研究の到達点と課題を精査し、再解釈をおこなっている。2016年度はとくに1970年の日本万国博覧会(大阪万博)の重要性に焦点をあてたが、今年度はその成果の公開に加えて、(1)日本におけるメディア論の系譜との関連性、(2)とくに70年代におけるビデオ・コミュニケーション運動との関連性、(3)英語圏でメディア・イベント概念が成立する90年代における受容過程、などを中心に調査を進めた。その結果、日本におけるメディア・イベント研究の全体像を整理でき、その理論的再構築の道筋をつけることができた。 また、東京オリンピックを3年後に迎える過程で、新聞社や放送局、あるいは広告代理店などが主導するメディア・イベントの実践がどのように構築され、あるいはそれにまつわる学問的言説がいかなるものか、逐次刊行物の調査を中心に整理を進めた。 2017年度の主要な研究業績は次のとおりである。 まず、2017年9月、共編著『現代メディア・イベント論 ―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』(勁草書房)を出版した。このなかで研究代表者は、2016年度の研究実績を踏まえて、「大阪万博以後 ─メディア・イベントの現代史に向けて」という論文を執筆した。また、立石祥子との共著で「ネット社会におけるメディア・イベント研究の地平 ─その仮設性=エフェメラリティを手がかりに」という論文を執筆し、本研究課題の問題意識を世に問うことができた。 2017年12月には、情報科学芸術大学院大学で開催された岐阜おおがきビエンナーレ2017のシンポジウム「藤幡正樹《Light on the Net》を解読する」に登壇したうえで、ここでの報告と議論の内容を踏まえて2018年3月、『情報科学芸術大学院大学紀要』9巻に「メディア・イベントの可能態」と題する論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年度中の刊行を目指していた論文集『現代メディア・イベント論 ―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』を予定通り出版し、これまでの研究成果を社会還元することができた。本書に収録した「ネット社会におけるメディア・イベント研究の地平 ─その仮設性=エフェメラリティを手がかりに」は、本研究課題の中間報告的な位置付けといえる。 また、英語圏でメディア・イベント概念が成立する90年代における日本の受容過程については、研究計画時には想定していなかった未公開資料の発見も相まって、計画以上に進展した。その成果は『情報科学芸術大学院大学紀要』9巻に掲載された論文、「メディア・イベントの可能態」にまとめることができた。 そして現在、2020年に東京オリンピックを迎える過程で、新聞社や放送局、あるいは広告代理店などが主導するメディア・イベントがどのように構築されているのか、また、それにまつわる学問的言説がどのようなものなのかについて、調査を進めている。この調査は2018年度に入ってから開始する予定であったが、逐次刊行物の調査については前倒しで進行することができた。 以上の点を踏まえて、本研究の進捗に対する自己評価は「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は東京大学大学院情報学環の客員研究員として、オリンピックを2年後に控えた東京を拠点に研究活動をおこなう。国立国会図書館や国立公文書館、大宅壮一文庫などの所蔵資料を活用して、メディア・イベントの歴史社会学的研究を推進する。 また、本研究ではこれまで歴史社会学的研究に重点を置いて調査を進めてきたが、2018年度は比較文化学的研究についても分析と考察を進める。欧米における研究の進展に比べて日本では、国際化と情報化にともなうメディア・イベントの今日的変容を同時代的に分析する研究は停滞している。2018年度はFIFAワールドカップの開催に際して、世界各地で大規模なパブリック・ビューイングが開催される見通しである。申請時の計画ではパブリック・ビューイングの日独比較分析を中心とする予定であったが、この2年のあいだに本研究課題と問題関心を共有する先行研究の成果が顕著に現れてきたことなどを考慮して、調査の対象と方法については見直しもあり得る。当初の到達目的を達成するうえで、より適切な事例分析をおこない、メディア・イベント研究の国際比較にまで敷衍したい。 2018年度は本研究課題の最終年度である。研究成果の一部については、2018年6月のカルチュラル・スタディーズ学会(Cultural Typhoon 2018、於:龍谷大学)などで報告をおこなう。また、前年度に出版した『現代メディア・イベント論 ―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』の執筆者と今後も連携しつつ、現代におけるメディア・イベント研究の枠組みを確立する。そして本研究の最終成果については、2019年度に単著(『メディア論の契機 ―70年大阪万博から20年東京五輪まで』(仮))として刊行するとともに、さまざまな媒体を駆使して社会還元に努める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2016年はUEFA欧州選手権に際し、ベルリンでは大規模なパブリック・ビューイングが開催される見通しがあり、日本ではオリンピックの集団視聴がおこなわれることを見込んでいた。これらの機会を活かして参与観察をおこなう予定だったが、フィールドの選定が困難を極め、海外調査は次年度以降に延期することとした。海外調査の費用として、申請段階で31万1千円を見込んでいたため、それに見合う金額を最終年度まで繰り越すこととなった。 (使用計画) 申請時の計画ではパブリック・ビューイングの日独比較分析を中心とする予定であった。2018年度はFIFAワールドカップの開催に際して、ベルリンで大規模なパブリック・ビューイング(=ファンマイレ)が開催される見通しであるが、ファンマイレに関しては近年、先行研究が蓄積されていることを考慮に入れて、メディア・イベントの日独比較分析という原則は維持しつつも、調査対象については見直しもあり得る。
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