研究課題
本研究の目的は、「生活困窮から社会的孤立に至る因果経路」を実証的に検討することである。先行研究では、生活困窮と社会的孤立の関連が認められつつも、これらの関連がなぜ生じているのか、つまり、「なぜ生活困窮者は誰にも頼れなくなるのか」を説明できてはいなかった。そこで本研究では、全国規模の郵送質問紙調査を実施することによって、生活困窮と社会的孤立の関連を媒介する要因を明らかにすることを目指した。2016年と2019年の2時点パネル調査データを用いて、構造方程式モデリングによる推定を行った結果、2つの媒介経路に関して有意な間接効果が認められた。第1に、「貧困である人は抑うつ傾向が高いため、孤立しやすい」という傾向が示された。第2に、「貧困である人は頼れる人も低階層であるため、孤立しやすい」という傾向が示された。すなわち、生活困窮者はメンタルヘルスを悪化させたり、周囲の人が社会経済的に余裕をもたない層であったりするため、困ったときに人に頼れなくなるということである。以上のように、2時点のパネル調査データを用いて、時間的前後関係を明確にした上で媒介要因を見いだせた点が、本研究の新規性である(学術的意義)。また本研究の結果は、生活困窮者の抑うつ傾向のスクリーニングの実施、あるいは私的サポートには頼れない人に対する公的サポートの重要性を示唆している点で、政策的インプリケーションを与えるものである(社会的意義)。上記の主要な研究知見以外にも、子ども期の不利(貧困、虐待、いじめ、不登校の経験)と成人後の社会的孤立の関連や、サポート・ネットワークと子育て中の孤独感の関連が上記調査データから明らかにされており、社会的孤立や孤独感の人生初期からの形成メカニズムについて理解を深めることができた。
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家族社会学研究
巻: 32(1) ページ: 7-19