研究課題/領域番号 |
16K17250
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
安達 智史 近畿大学, 総合社会学部, 講師 (90756826)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ムスリム女性 / インタビュー / 社会統合 / 世俗化 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本研究は、イギリス、マレーシア、日本のムスリム女性の比較を通じて、信仰と社会参加の(彼女たちによる)関係づけの様式を分析することを目的としている。28年度の調査は、①日本のムスリム女性にインタビューをおこなうとともに、②29年度のマレーシアにおけるインタビュー調査に向けた準備・交渉をおこなった。 ①では、計22人分のインタビュー・データを入手し、それをもとに分析をおこなった。その結果、下記の点が明らかとなった。第一に、インフォーマントの個人的背景とイスラームへの改宗との関係には多様性が存在している。第二に、イスラームと触れるきっかけとして海外旅行が重要な役割を果たしているが、同様に、インターネットやチャットを通じた経験もその共通する重要な経路となっている。第三に、いく人かのインフォーマントは、外国人のムスリム男性を夫としている一方で、独身のムスリム女性も多数いた。第四に、パートナーとの婚姻関係がイスラームの観点から観察されることで、その内容をめぐり交渉や改定がなされたりしている。第五に、インフォーマントが主たる家計維持の役割を果たしている場合が多く、そのことがジェンダー関係をより開かれたものとしている。第六に、イスラームに対する態度はさまざまであり、それぞれが置かれた状況に依存している。そして第七に、イスラームの知識の習得は、インフォーマントが自身の生活やパートナーとの関係をコントロールするのに寄与している。以上の結果は、日本人ムスリム女性がイスラーム理解や実践に対して受動的ではなく、より積極的に関与することで、自身のアイデンティティを構築していることを明らかにするものである。 また②では、マレーシアでの調査準備のため、現地の研究者と大学機関と二度打ち合わせをおこない、29年度夏からのインタビュー調査のための協力をとりつけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、おおむね計画通り進展している。 日本のムスリム女性へのインタビューは、計22人分のインタビュー・データを得ることができ、分析もおこなうことができた。また、これまで得た関西および東海地方のムスリムに加え、東京のモスクにおいてインタビュー調査の協力を得ることができ、来年度以降の調査計画遂行のめどがたった。 マレーシアにおける調査準備は、現地の協力研究者が大学を移られたこともあり、滞りそうになったが、前任大学とともにサポートしてもらう約束を得ることができ、29年度以降のインタビュー調査のめどがたった。そのため、予定通り調査がおこなえる見込みである。 また、分析も順調におこなえており、シンポジウム、学会、研究論文などを通じて成果を部分的に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、マレーシアにおけるムスリム女性へのインタビューを本格的におこなう。現地の大学および研究者を通じて、インフォーマントを集め、インタビューを実施する。また、現地の研究者を日本に招き、代表者が主催する研究会や学会の部会にて、発表をおこなってもらうことで、研究交流をおこない、本研究の進展に協力していただくことになっている。 再来年度には、すでに情報を得ているイギリスのデータに加え、マレーシアと日本のインタビュー・データを総合し、複数の論点(イスラームと女性役割、近代化とイスラーム化、イスラームと社会参加などの諸関係のあり方)から分析をおこなう。その際、それぞれの国に共通する要因および異なる文脈が有する意味について検討することで、グローバル化が女性ムスリムにおよぼす影響と、各国の経路依存性が女性たちにもつ意義について議論をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部予算が次年度繰越となった理由は、下記三点の理由がある。第一に、本年度は、研究計画において相当部を占めるマレーシアにおける調査旅費が、(現地の研究協力者の異動のため)調査打ち合わせだけとなったため、その分予定された支出が減ったためである。第二に、第一と関連し、来年度はマレーシアにおける調査が長期化するのに加え、現地研究者を日本に招き、研究交流をおこなう予定であり、その分の予算を必要とするためである。第三に、年度末に出張(東京、マレーシア)をおこなった分の旅費等が、処理手続き上、次年度に処理されることになったため、見た目上繰り越し金額が多くなったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
①マレーシアにおける調査(夏・春、各2-4週間の出張旅費、調査謝礼等への支払い)、②日本における調査(東京への出張、調査謝礼等への支払い)、③海外の研究協力者の日本への招聘および研究交流に用いる(11月)。
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