本研究の目的は、主に海外の犯罪社会学の研究蓄積を踏まえ、戦後の更生保護制度が整備され展開していく過程に着目し、保護司の処遇実践における諸課題と社会構造上に存在する諸問題との結びつきを明らかにすることである。具体的には、保護観察対象者の「立ち直り」において、結婚や就学・就労、家族などの周囲の人間関係の回復、アイデンティティの回復、被害者との関係の調整といった、保護観察の処遇実践で共通にめざされるゴールに向け、保護司がどのように処遇実践をおこなってきたのかを、雑誌『更生保護』の1950年代~1970年代の記事を対象とし、分析する。本研究は、これまで日本でほとんど研究蓄積のない更生保護制度の歴史に焦点化しており、過去の処遇実践が現代のそれとどのように結びついているのかを検討する点で、新たな知見をもたらしうる。 平成30年度は、前年度までに不十分だった枠組みの精緻化を継続して進め、次の2つの視角を得た――①対象者個人の変容にアプローチする処遇と対象者を取り巻く関係性にアプローチする処遇という2種類があるということ、②保護司が科学にもとづいて処遇実践を行おうとする際に、処遇を効率的に進めるための科学と対象者の更生の程度を測定するための科学という2種類があるということ。一方で、本来予定していた「社会を明るくする運動」の事例分析を十分に進めることはできなかったが、平成29年度までの成果を踏まえ、あるべき社会復帰の像や対象者の姿が社会によって規定されているという内容で、海外での学会報告を行った。 研究期間全体では、保護司が対象者の拠り所となる仕事や家族関係を与えることによって再犯や再非行の抑止力となると考え処遇をしていたということや、民間人である保護司が「いつでもこの職務から離れることができる」という立場にありながら処遇を続けることにより対象者の立ち直りが促されていた面が示唆された。
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