本研究は、第1に、被災状況やソーシャルネットワークの多寡と、認知症との関連性を明らかにすること、第2に、ソーシャルネットワークを醸成する支援策を提示することを目的としている。 第1の目的に関しては、分析に用いる介護関連のデータや死亡・転居に関するデータの収集が新型コロナウイルス感染症等の影響で遅れていたが、一部で収集できた自治体のデータを用いて、分析用のデータセットを作成した。ソーシャルネットワークの推移を確認するために、震災から約1年後の2012年度~2016年度まで(第1フェーズ)と、2016年度~2020年度まで(第2フェーズ)に区分し、平均得点と社会的孤立が疑われる者の割合を検討した。なお2011年度の数値は、被災者の心情に配慮しソーシャルネットワークを測定する尺度(Lubbenのソーシャルネットワーク尺度)のオリジナル項目の修正して用いたため、推移の記述からは除外した。約10年の推移を検討した結果、震災から中長期的な期間を経ても、ソーシャルネットワークが乏しい状態にあることが示された。ソーシャルネットワークが乏しい人において認知症を発症しやすいか否の分析は調整変数を再検討するなどしてさらに分析を進めることが求められる。 第2の目的に関しては、現地でのフィールドワークが十分に行えなかった。岩手県の医療関係者への聞き取り等で情報を得たものの、被災した地域に直接出向いて参与観察等を行うことができなかった。今年度は先行研究のレビューや、高齢者のつながりづくりに関わっている実践家や研究者との意見交換を通じて、ソーシャルネットワークを豊かにするための方策について情報を収集した。
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