急速な高齢化の進展により、中国は国内および外国の民間資本を導入し、市場サービスの利用を推進している。文化や生活習慣の異なる中国に進出した日本式介護は、その意義や価値の共有が困難になり、その結果、利用者獲得に苦慮している。 申請者は上記の日本式介護の課題の克服に向けて、まず日本式介護の進出環境を確認した。中国における福祉の市場化の展開と特徴を検討した結果、中国の福祉の市場化は基本的な方向性として「家族から市場へ」展開し、「民営化」を通して市場化が進んできた。そして、中国の福祉市場は、市場の構成要素である選択、価格、競争を全て備えていると同時に、行政からの規制・指導監督が弱いため、現段階では自由市場に近い。 福祉の市場化に加え、実施されている介護保険モデル事業にはサービス基盤の準備や財源の確保などの課題が現れているため、中国全国において実施する可能性についてはさらなる検討が必要であるということも確認できた。市場原理による補完が前提とされる中国の介護サービス供給は、今後、日本介護事業者の中国進出をさらに促進すると予想される。 また、申請者は日本の介護サービスの現地化プロセスに焦点をあて、事例調査を通して「日本式介護の特性」について検討した。日本の介護事業者は自立支援、尊厳のある支援の相手本位の介護理念や考え方を、中国での事業展開においては維持しようとしている。しかし、日本式介護の特徴である「自立支援」は、サービス提供者(現地採用の中国人職員)に理解されていない。「高級サービスというのは、王様のようになんでもしてもらうようなサービス」と中国の介護観により、サービスの利用者(中国人高齢者とその家族)も日本の自立支援を受け入れていない。そこで、日本式介護の中国における適応可能性を考える際、何をもってその質が高いと言えるか、その効果の実証を明らかにすることは今後の課題になる。
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