平成30年度は、リスク認知の情報処理過程に関し、詳細に検討を加えるため、引き続き確率的潜在意味解析および多属性意思決定過程における決定方略の計算機シミュレーションを用いた分析を行った。新規に調査を行い、参加者に福島県産と鹿児島県の野菜について、形容詞による回答を求めた。形容詞データに形態素解析を行い、名詞、形容詞、動詞を抽出した。出現頻度が2以上の抽出された品詞をに、確率的潜在意味解析を行った。トピック数は6とし、トピックの出現確率と各トピックの下で品詞の出現確率を推定した。推定されたトピックは、主に福島第一原子力発電所事故に関するトピックと、野菜の味に関するトピックの二つに大別された。次に、野菜の産地の選択を仮定し、品詞を属性と置き、抽出された品詞を用いて、決定方略の計算機シミュレーションを行った。決定方略は、加算差型、連結型、分離型、EBA型、辞書編纂型とした。決定方略毎、トピック毎にシミュレーションを行い、走査された属性、選択肢、およびその順序を記録した。また、一つのトピックが一つの決定方略に対応すると仮定し、品詞の観測頻度を最も再現する決定方略の組み合わせを探索した。決定方略毎、トピック毎に、期待頻度を計算し、観測頻度とのジェンセンシャノンダイバージェンスが最小となる決定方略の組み合わせを探索した。本調査では、主に連結型、辞書編纂型といった非補償的な情報処理が行われており、一部加算差型、加算型といった補償的な情報処理が行われていた可能性が示された。本分析枠組みから、データの背後にある情報処理の類型を検討できる可能性が示唆された。また、情報処理の類型の組み合わせから、新しい類型を見いだすことも可能と考えられる。今後は、情報処理モニタリング法、眼球運動測定法で得られる行動データへの適用や、描画の過程データへの適用および、これら複数データを用いた総合的分析が想定される。
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