研究課題/領域番号 |
16K17292
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 剛明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (80772102)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 道徳ジレンマ / 注意制御 / 感情制御 / 判断・行動の乖離 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、人への危害を含む反道徳的な行為に関して、人々が示す「判断」と「遂行」との乖離を明らかにし、その原因となる心理過程を探ることを目的とする。特に、行動の遂行に際しては、その行為を促す目標に沿った自己制御のプロセスが働くと想定し、その検証を行う。 平成28年度は、まず、対象領域に関する基盤的理解の獲得を目指し、道徳判断・行動、自己制御、注意、感情、道徳哲学、倫理学といった幅広い領域の知見をレビューし、整理した。そのうえで、実証的研究として、特性的な自己制御能力が、道徳ジレンマへの反応に及ぼす影響を検討した。具体的には、参加者150名を対象に、エフォートフル・コントロール尺度日本語版(山形ら, 2005)を用いて、実行注意を軸とする認知的自己制御能力の個人差を測った上で、帰結主義的な道徳違反行為の是非を問う内容の12種類の道徳ジレンマ・シナリオを提示し、反応を求めた。さらに、参加者の共感的特性も交えて分析を行ったところ、自己制御特性と共感性が、交互作用的に道徳ジレンマへの反応を規定することが示された。既存の研究では、共感性の高さと反道徳的行為への否定的判断との関連がみられるが、本研究では、自己制御特性が高い場合には、共感性に関わらず人々が否定的に判断するという傾向が見出された。この結果は、これまでの理論的モデルに対して、自己制御能力が果たす役割を提起するものである。同時に、自己制御と道徳行動の関連性に主眼を置く、本プロジェクトの展望に大きく寄与する知見であり、平成29年度に実施するさらなる研究につながるものである。 上記の研究に関しては、平成29年度中に国際学会にて報告予定である。また、平成28年度では、既得の研究データを国内外の学会で発表した他、論文が学術誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究計画は、研究遂行に関わる基盤的知識の獲得・整理と、特性的な自己制御能力にフォーカスした実証的検討を目指すものであった。この目的に照らし、先行研究の精緻なレビューと、自己制御特性が道徳ジレンマ判断に与える影響に関する調査を実施した。以上より、当初の目的が、大部分は達成されたと考える。一方で、当初予期していなかった事柄として、平成28年度中の購入を予定していた視線計測装置(Eye Tribeトラッカー)の度重なる発売延期があった末、平成28年12月に同社製品の開発中止および事業撤退が発表された。平成29年度に同装置を使って注意制御のプロセスを測定する実験を計画しており、平成28年度には、実験実施の準備を進めておく予定であったが、その点で計画の見直しが生じている。そのため、特に平成29年度において、当初計画からの遅れが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、平成28年度に得られた知見をベースに、さらなる実験的研究を遂行することとなる。道徳ジレンマ状況における「判断」と「行動」の差について、引き続き注意制御の観点から検討するが、その際に、次のいくつかの要素を核とする。まず、特性的な自己制御能力の測定のため、平成28年度とは異なる手続き(Attentional Control Capacity for Emotionの測定課題)を採用する予定である。また、道徳判断の課題に即した注意制御過程を検証するため、(1)判断フェーズで与えられる情報についての再認課題と、(2)視線計測装置を用いた注意制御のリアルタイム測定を実施する。(2)については、やむを得ない事情により平成28年度中に視線計測装置の購入ができなかったため、平成29年度の後半の時期の実施が見込まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度中の購入を予定していた視線計測装置に関して、平成28年12月に同社製品の開発中止および事業撤退が発表された。そのため、代替機種について検討した上で、平成29年度に購入する計画となった。また、同装置を使った実験が(予備実験を含め)平成29年度の実施となり、実験参加者への謝礼などの経費も、次年度の予算に含まれる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、視線計測装置や実験用PCなどを購入した上で、それらの機材を使用する実験を複数回実施する。実験はそれぞれ数十名の参加者を対象とし、各人に1000~1500円の実験参加謝礼を支払う予定である。
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