研究実績の概要 |
本年度は身体への気づきの程度がどのような個人特性と関連するかについて検討した。とりわけ,本年度はDark Triad(以下DTとよぶ)と呼ばれる個人特性との関連を調べた。DTとはマキャベリアニズム,サイコパシー,自己愛性傾向の総称のことで,共感性や罪悪感の著しい欠如,自己中心性,他者への高い攻撃性などの特徴を示す(Paulhus & Williams, 2002)。このようなDTの特徴によって,高DT傾向者は適切な対人関係の構築,維持に困難を示すことが先行研究によって明らかとなっている(e.g., Masui, Nomura, Ura, 2012; Masui & Ura, 2016))。 まず,質問紙調査にて身体への気づきの程度を回答者の自己報告によって測定するMultidimensional Assessment of Interoceptive AwarenessとDTを測定するDark Triad Dirty Dozenとの関連を調べた。その結果,身体への気づきの程度の得点とサイコパシー傾向を測定する項目との間に負の関連が認められた。したがって,サイコパシー傾向の高い人ほど自身の身体内部の変化に対して鈍感であることが示唆された。 次に,身体への気づきの中から「外的環境の寒さへの気づき」に着目し,寒さへの気づきの違いがDT,およびDT傾向の高い人の行動に及ぼす影響を検討した。先行研究では,身体的な(環境的な)暖かさと心理的な温かさとが密接に関連することを報告している(Williams & Bargh(2008)。本調査においても外的気温の暖かさが高DT傾向者の援助行動を促進させることが明らかとなった。このことは,たとえ身体への気づきの程度が低い高DT傾向者であっても,その必要性の低い環境では利他的に振る舞える可能性を示唆する。
|