研究実績の概要 |
本年度は身体への気づきの指標として、身体的な温かさに着目して、身体的な温かさを感じることが私たちの対人行動にどのような影響を及ぼすのかを検討した。先行研究によると、身体的な温かさを感じることで心理的な温かさが促進され、利他的行動が増大することが明らかとなっている(Williams & Bargh, 2008)。それらの影響が心理的に冷たい特徴を持つ人たちに対しても有効なのかどうかを調べるため、Dark Triad(以下DTとよぶ)と呼ばれる個人特性に着目し、身体的な温かさがDTと援助意図との関係性に及ぼす影響を検討した。DTとはマキャベリアニズム、サイコパシー、自己愛性傾向の総称のことで、共感の著しい欠如や他者操作性を特徴とする(Paulhus & Williams, 2002)。 研究ではインターネット調査を実施し、他者が様々な困難に陥っている場面に遭遇したという架空のシナリオを読ませ、その他者を助けるかどうかを尋ねた。併せて、DTの程度を測定する尺度と参加者の住んでいる県を回答させた。なお、住んでいる県の年平均気温を法務省統計局の統計データより算出し、身体的温かさの指標として用いた。研究の結果、平均気温の高い地域に住んでいる人のほうが、低い地域に住んでいる人よりも援助意図の程度が高かった。また、DTの高い人は、低い人よりも援助意図の程度が低かった。さらに、DTと平均気温の交互作用効果が確認され、DTが高く、かつ気温の低い地域に住んでいる人は、DTは高いが気温の高い地域に住んでいる人やDTの低い人よりも援助意図が有意に低かった。以上の結果から、身体的な温かさは心理的な温かさを促進するという効果は、心理的に冷たい特徴を持つ人たちに対しても有効であることが示唆された。
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