本研究の目的は、社会的不平等に伴う脅威に対処するための多元的正当化プロセスの存在を仮定し、そのメカニズムを明らかにすることである。これにより、多くの日本人が「行き過ぎ」と考える現在の格差を縮小させるための1つの足掛かりが得られることが期待される。 過去2年間の研究では、社会的不平等についての新聞記事の提示(脅威操作)が社会全体に対する不公正感(マクロ不公正感)を高める一方(H28年度調査)、日本社会への経済的な依存性が高いと感じている人たちの間で自分自身は不公正に扱わているとの感覚(ミクロ不公正感)を低減する(H29年度調査)ことが見いだされた。これを受けて、最終年度は脅威に加えて日本社会への依存性を実験的に操作し、その組み合わせが多元的公正感に及ぼす影響を検討した。 2019年2月にウェブ調査を実施し、脅威(なしvsあり)×依存性(低vs高)の2要因が多元的公正感に及ぼす影響を検討した。分析の結果、まず脅威操作はマクロ不公正感を高めることが示された。これは、多元的正当化の重要な前提の1つである「格差情報への接触がマクロ不公正感を高める」を支持する結果である。一方、脅威操作は平等・必要性志向が相対的に強い人の間でミクロ不公正感を低める傾向が示された。これは、多元的正当化プロセスのもう一方の基本的仮説である「格差情報への接触がミクロ不公正感を低減する」を部分的に支持する結果である。 一方で、依存性の高まりが脅威に対する多元的正当化を促進するという当初予想した結果は今のところ得られていない。ただし、依存性操作は平等・必要性志向が相対的に低い人の間でマクロ不公正感を高める方向に作用する傾向がみられるなど、いくつかの予想外の結果が得られている。今後、回答者の社会経済的地位を含めその他の要因を分析に加えることで、多元的正当化メカニズムのさらなる解明が求められる。
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