最終年度は、前年度に収集した公正推論に関する世代間・文化間比較用のデータの分析(追加のデータ収集を含む)、および前年度実施した日本語版道徳基盤尺度の妥当性に関する研究をまとめ、発表を行った。 まず、公正推論の世代間比較では、高齢者(60歳以上)は若年者(18~29歳)に比べて、他者に起こった様々な不運や幸運を目の当たりにする経験を多く積んでおり、そのような経験を通して、良い人が報われ、悪い人が罰を受けるといった因果応報的な考えと必ずしも一致しない出来事にも触れてきていると考えた。そしてその結果、高齢者は若年者よりも、他者に起こった不運とその人物の道徳的価値を単純に結びつけるような内在的公正推論を行いにくいのではないかという仮説のもと、分析を行い、これを支持する結果を得た。また、日本人とアメリカ人のデータを比較したところ、高齢者では日本人の方が内在的公正推論を行う程度が強かったが、若年者ではこのような文化差は見られなかった。Web調査におけるサンプルの代表性を考慮し、日本人の高齢者について、追加でFAX調査によるデータ収集、分析を行ったところ、おおむねWebで得られた結果と類似した傾向が見られた。 次に、時間認識と公正推論の関係性についても検討したところ、アメリカ人では、世代を問わず快楽的で危険を好む「現在快楽」、自分の人生は天任せ、のような無力感を伴った態度を示す「現在運命」と内在的公正推論が関連を示したが、日本では世代によって関連のパターンが異なることが示された。 最後に、日本語版道徳基盤尺度については、システム正当化尺度、社会的支配性尺度、政治的態度との関連などを通して妥当性の検証を行った。
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