本研究は、近年社会問題となっている若者の自殺増加や引きこもりなどの原因解明の手掛かりを見つけることを目指すものである。これまでの研究では社会的要因や個人の社会への行動特性などから原因を解明する試みが主であったが、本研究では死に対する態度や自己への没入傾向などの個人の内面的特性と自己内省に関連する神経基盤との関係性を明らかにすることを目的とし、質問紙法を用いた行動学的実験及び機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて自己内省誘発課題などの自己関連認知課題遂行中の脳活動を測定する心理生理学的実験を行った。 平成30年度までに行った行動学的実験において、死に対する不安・恐怖、及び死への関心のスコアが非常に高いグループと非常に低いグループに分かれる傾向が見られた。又、自己内省誘発課題では、ぼんやりしている時間の8割以上は何らかの思考が頭に浮かんでおり、思考内容は自己に関連する内容がその他の内容より多いという傾向が見られた。しかしながら、死に対する態度スコアと自己に関連する思考時間の割合の間には関連性は見られなかった。 平成31年度には、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて安静時脳活動(開眼、自由な思考あり)、自己内省誘発課題、自己の内・外に順番に注意を切り替える課題を遂行中の脳活動を計測し、「死に対する態度尺度」、「没入尺度」、「自我態度スケール」、「自意識尺度」、「ストレス・コーピングテスト」など個人の内面的特性を測る質問紙のスコアとの相関を調べたが、それらの間に関連性は見られなかった。しかしながら、平成31年度の実験で新たに追加した離人症に関する質問紙「CDS」と抑うつ質問紙「BDI-II」のスコアの間に有意な正の相関が見られた。この結果は、自己所属感、現実感、自己主体感の減弱が鬱と関連する可能性を示唆しており、さらに脳機能との関連性を調べる研究を今後進める予定である。
|