研究課題/領域番号 |
16K17306
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 大地 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (00724486)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教授法 / 学習 / 熟達 / 芸術表現 / 表現教育 / 協働学習 / 観察学習 / ダンス |
研究実績の概要 |
本年度では、「熟達者と初心者または中級者がお互いの活動を観察すること」による影響を検討するために、熟達者と初心者・中級者を対象にした縦断的なフィールドワークとフィールド場面における準実験を実施した(研究1)。また,「熟達者同士が言語的な交流を行うこと」による影響を検討するために、熟達者を対象にしたフィールドワークを実施した(研究2)。 まず研究1では、縦断的なフィールドワークを実施し、現実の練習場面において熟達者と初心者・中級者が互いの動きを観察することによって受ける影響について、ビデオ映像や身体運動測定用の機器を用いて検討した。ここでは特に、平成28年度における熟達者間の観察において見られた他者の動きからの模倣・触発といった観点に着目した検討を行った。そして、フィールドワークの結果を踏まえた準実験を実施した。準実験では、交互に踊りを披露し合う実験場面をフィールドにおいて設定し、熟達者と初心者・中級者複数名を対象にしたデータの測定と解析を行った。データについては、主に身体運動指標を測定した。現在、この研究の知見については、関連する学会・研究会で発表予定であり、論文執筆も進める予定である。 次に研究2では、フィールドワークを実施し、現実の練習場面において熟達者同士が言語的な交流を行うことによって受ける影響について、発話内容・身体運動両側面に着目して検討した。ここでは特に他者の意見や提案をどう解釈し発展させ、自身の運動の中に取り入れていくのか、アイデアの発展に着目した検討を行った。現在、この研究の知見については、関連する学会・研究会での発表準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定と比べて、「熟達者同士が言語的な交流を行うこと」による影響についてフィールドワークによる検討は行えているものの、準実験による検討を実施出来ておらず、若干遅れている状態である。これは、上記のフィールドワークにおいて、他者の提案を自身の観点を用いて解釈し直し自身の運動の中に取り入れる、という他者からの創造的な影響を代表する現象が見られたためである。この現象を詳細に検討するために、現在発話内容や身体運動個々の解析を発展させた、両者の対応関係を抽出する解析手法・可視化手法を現在開発中である。この手法を利用した準実験を行うことを予定しているため、手法の開発を先に行っている状態である。手法の開発が済み次第、準実験を実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3年目にあたる平成30年度は、「熟達者同士で言語的な交流を行うこと」による影響、また「熟達者と初心者または中級者で言語的な交流を行うこと」による影響の2点について検討を行う。まず1点目については、平成29年度のフィールドワークを発展させた準実験を行い、熟達者同士で言語的な交流を行い、表現を発展させる様相を心理指標や身体運動測定装置、そして上記の開発した解析手法等を用いて検討する予定である。このことによって、他者との言語的な提案を通して熟達者がどのように表現を発展させるのか、そのメカニズムの概要を検討することが可能である。 次に2点目の「熟達者と初心者または中級者で言語的な交流を行うこと」による影響については、熟達者同士の場合と同様に、実際に生じる影響が複雑なものとなる可能性が想定される。そのため、まずフィールドワークによる予備調査を行い、生じる影響について探索的に抽出・整理する。そして要因の統制や測定指標の整理を行った上で、熟達者同士の場合と類似した準実験を実施する予定である。特に準実験では、初心者・中級者が表現活動を行い、熟達者が表現活動を伴わない言語教示や議論のみを行う場面に加え、両者が表現活動を行い言語教示や議論を行っていく場面も取り上げる。そして、その様相を発話内容・身体運動双方の指標を利用し検討する。以上の検討により、他者の発話、特に熟達者の発話の影響を受けた初心者・中級者の学びや熟達の展開過程、そして初心者・中級者の発話の影響を受けた熟達者の表現の発展過程について実証的な検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度においては、当初の予定と異なり「熟達者同士で言語的な交流を行うこと」による影響を検討する準実験を実施出来なかった。そのため、この準実験を平成30年度に実施予定である。また「熟達者と初心者・中級者で言語的な交流を行うこと」による影響を検討する際も、予備調査としてフィールドワークを実施し、要因や測定指標の整理、その解析手法の開発を行うことが必要だと考えられる。以上を実施するために、次年度において、被験者謝金の支払い、測定関連機器の購入、解析機器の購入、そして解析手法の妥当性に関する学会・研究会における議論・検討が必要となる。以上の理由により次年度使用額が生じた。 (使用計画)前述した通り、平成30年度では「熟達者同士が言語的に交流を行う場面」における互いの影響を検討する準実験を行う。また、「熟達者と初心者・中級者が言語的に交流を行う場面」における互いの影響を検討するフィールドワークも追加して行う。その際、被験者に支払うための謝金、実際にパフォーマンスや議論を行う場面において、発話内容や身体運動データを客観的に測定・解析する機器が必要不可欠となる。また現象に加え、そこで用いる解析手法も新奇なものであり、その妥当性について学会・研究会を通して他の研究者と知見を交流・共有し、研究の新たな成果として加える予定である。以上の手続きを進めるために次年度使用額を使用する。
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