学力調査等で学力の「伸び」を測定するために,経年的に繰り返し一つの構成概念を測定し続けるテストが,近年多くの種類が行われるようになってきている。本研究ではこれらの「伸び」を測る目的でデザインされた「重複テスト分冊法」(多数の問題項目について項目特性値を推定するために,部分的に共通の項目を含む複数の問題冊子を用いて受験者にテストを行う手法)によるテストをとりあげる。重複テスト分冊法では受験者から得られたデータセットは組織的な欠測値を含む形になるが,このデータを根拠に問題項目ごとの項目特性値を推定する手法は複数提案されていた。それらの推定手法や,複数の問題冊子に含まれる項目で共通の意味をもつ尺度に変換する手続き(等化)の手法の間で,どの手法がもっとも理論と合致した結果を返すかについては多くの先行研究が存在する一方,経年的に新規問題項目を追加しながら項目バンク(項目情報を一元的に管理するデータベース)に等化済みの項目母数をもつ項目を累積させていく「項目バンク増殖法」については,十分な知見の蓄積がなかった。 本研究課題では項目バンク増殖法をとった場合に,どの分析手法が最も理論と合致するかについて,人工データを用いたシミュレーション研究や実データによる分析を行う。そのうえで,項目バンク増殖法における等化手法として,テスト実践上ふさわしい等化手法を検討することを主たる目的とする。これらの検討を通じ,経年変化を追うことを目的としたいくつかの学力テストについて,分析手法の改善や手順の見直し等を行うことができ,より正確な学力の測定に結び付けることが可能となることが期待される。ただし今後の課題として,尺度の一次元性(局所依存性)が満たされない場合に,理論通りの結果とならない度合いを検討する必要が指摘された。
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