本研究の目的は、子育て期にある既婚女性の就労意識や主観的幸福感にアイデンティティ特徴がいかようにして影響を及ぼすのかを明らかにすることである。前年度までは質問紙調査による検討を行ってきたが、2019年度はインタビュー調査を実施し、質問紙調査から得られた知見の確認をすると共に、女性の語りを通して日常的な視点から上述の課題を検討した。 就労継続タイプ、再就業タイプ、専業主婦タイプの既婚有子女性それぞれ4名に60-90分程度の半構造化面接を実施した。具体的には、(1)育児、(2)職場での就労状況・環境、(3)仕事への意識及びやりがい、(4)ライフコース選択の理由、(5)普段参加している文脈、(6)各文脈における自分らしさ(「アイデンティティ」という表現は難しいため、「自分らしさ」を代替語として用いた)、といった項目を中心に面接を実施した。 その結果、“熟考の末”というよりも、“なんとなく”ライフコース選択をしている女性の姿が明らかとなった。特に、専業主婦タイプにおいては、“女性は〇〇しなければならない”といった伝統的性役割観をもっており、その性役割観に反する他者(他の子育て中の母親)についても否定的に捉えていることが多かった。一方で、就業継続タイプの語りには性役割観に関する記述はほとんどなく、他者貢献と関連づけた夢の実現についての内容が多くみられた。アイデンティティについては、質問紙調査の内容を支持する知見が得られ、とくに専業主婦タイプにおいては文脈特有のアイデンティティの少なさとそれに伴う悩みや不安についての語りもみられた。専業主婦タイプの就労意識が低いわけではないこと、またアイデンティティ構造の視点からみると脆弱性の高い自己構造を有していることを考慮すると、家庭を中心とした支援をしながらも、身近に働きやすく深く関与できる環境を提供することが主観的幸福感の向上に役立つと考えられる。
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