研究実績の概要 |
平成28年12月末までに全登録者310名から登録後辞退者等を除く301名がDRIVE studyベースライン調査に参加した。ベースライン調査時に一定の基準を満たした者を除外し, 278名を追跡対象とした。さらに278名からもの忘れの訴え無しの認知機能低下者 24名を除いた254名を, MMSEおよび日本語版RBANSを指標として, 認知機能低下のある軽度認知障害 (MCI)群66名と, 認知機能健常 (CN) 群188名に分類した。29年度には, ベースライン調査から半年毎の追跡評価を継続し, 1年後までの追跡調査票の回収を終了した。さらに1.5年目の段階における認知機能の再評価 (来院調査)を開始した。年度内に半年後調査のデータクリーニングまでを終えたが, 全解析対象254名の内, 14名が脱落しており (解析対象中での脱落率: 5.8%), 脱落率に群間差はなかった。脱落者を除く, MCI群63名, CN群177名のベースライン時点および半年後時点の週あたりの走行距離を比較したところ群間差はなかった。そこで, 半年後時点での自己申告に基づいた運転中の事故, 交通違反, 記録に残らない運転中の失敗の発生頻度を比較したが群間差は認められていない。また, 半年間に事故・交通違反を経験した時点および 運転中止・中断した時点をイベント発生と捉え, 群と教育歴を要因として投入したCOX回帰分析を行った所, MCIが運転能力に与える影響は明らかといえなかった。未だイベント発生は14例と少数であり, 追跡を継続して検討することが必要である。他方, 共変量とした教育歴の影響が有意傾向であった。高い教育歴が運転能力に与える影響については様々な仮説が想定され得る。本研究の方法上の限界でもあるが, 今後の追跡調査では, 教育歴の補正を行った上で群間差の検討を行うことが肝要と考える。
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今後の研究の推進方策 |
DRIVE studyでは, (1) MCIの運転リスクを前向きに評価することおよび, (2) 運転行動変化や運転リスクと関連深い認知機能指標の同定とそのカットオフ値探索を主な解析項目としている。今後, イベント報告数の蓄積とともに (2)の解析を進める予定であるが, 現段階 (ベースライン調査の結果)では, 運転能力と関連するとして既報のある各種の認知機能成績にMCI群とCN群との間で部分的に差が認められた。一方, 時計描画検査の成績, 透視立方体模写のエラー%, TMT-A施行時間には差が認められなかった。これら差の認められなかった検査については, 高齢運転者における認知機能変化を代表する指標でない可能性がある一方で, MCIであることと無関係に, 運転能力が低下している高齢運転者とそうでない高齢運転者を弁別する課題であるために差が認められていない可能性が残る。また, 本研究では機縁法によって対象者を集めた。より多くの変数にて調整した上で群間差についての検討を目指すことが望ましい。今後, イベント経験のある対象者数が十分に確保できた段階で, 教育歴をはじめとした多くの必要変数で調整した上, 高齢運転者の認知機能と事故等の経験や, 運転技能と課題成績の関わりをさらに検討することを目指す。これまでに指摘されてきた視機能, 運動機能, 内服薬, 睡眠障害の影響などに加えて聴覚機能や情動面の特性にも着目して追跡調査を継続しており, 運転能力に関する多角的な指標に基づいて, 運転継続判断に寄与する判断閾値の提供と, さらには補償方法の効果的な提供が可能となるよう研究を進めることが今後の推進方策である。
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