研究課題/領域番号 |
16K17336
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田村 優佳 愛媛大学, 教育学研究科, 助教(特定教員) (70627463)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 内観療法 / 集中内観 / 事例研究 / 自己開示 |
研究実績の概要 |
本年度の研究課題は,犯罪少年が内観療法を行う中で,家族イメージと自己イメージにのぞましい変化が生じるか検討することであった。内観療法は集中内観と日常内観に分けられるが,本研究で取り上げるのは通常1週間かけて行う集中内観である。 分析を行うにあたって,内観前,内観直後,効果の継続性を調べるために内観終了1か月後の3回にわたる心理検査(動物家族画),アンケート調査(非行に係るリスクやレジリエンスを測定する項目),インタビュー調査(集中内観の感想,自己理解の深まりなど)からデータを蓄積した。 以下より事例研究の概要を示す。 対象者は,少年A(男性,10代後半)である。少年Aは,複雑な家庭環境を背景として寂しさがあるが平静を装っていた。この屈折した感情は,粗暴な非行や刺青という自己顕示として表出した。内観前,少年Aの動物家族画は単に親子を表出した絵にすぎなかった。内観後,母親が子どもを抱っこしている絵に変化した。これを受けて,少年Aは母親から大事にされたことや母親の愛情を再発見し,母親への心理的距離が縮まったと推察された。アンケート調査の結果,少年Aが傷つきやすさを軽減し,関係志向を高めたことも明らかとなった。 さらに内観後,少年Aは「素直にありのままの自分をだしたい」と述べており,自己開示(自己の内面を他者へ開示する)が方向づけされたことは特筆すべき点である。自己開示に成功した少年は,矯正教育の成功者といっても過言ではない。等身大の自分を周囲の人にさらしても自尊心が維持されるからである。少年Aに際しては,集中内観によって,自己顕示から自己開示への切り替えが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は,集中内観が犯罪少年の家族イメージや自己イメージ,固執性に与える影響を調べることであった。このうち,家族イメージや自己イメージの変化は,少年Aの事例研究を行い論文化した。固執性に関しては統計処理を行うために,次年度の調査によるデータの追加が必要である。 次年度は,ロールシャッハテストの結果を用いて,内観の深まりを明らかにすることを目的とする。本年度に行った調査によって,ロールシャッハテストの結果と内観の深まりに関するデータを得ており,次年度の研究の準備を行うことができた。現在までのところ研究課題はおおむね順調に進展しているものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度同様に,矯正処遇施設において研究の内容を説明し,研究参加への同意が得られた者を調査対象者とする。集中内観後の変化を分析するため,心理検査(動物家族画,ロールシャッハテストなど)及びインタビュー調査(集中内観の感想,自己理解の深まりなど)による質的側面からと,アンケート調査(非行に係るリスクやレジリエンスを測定する項目など)を中心とする量的側面からの両側面からデータの蓄積を行う。 次年度に取り組む研究課題は,(1) 集中内観によって固執性に変化が見られるかどうか統計処理を行うこと,(2)ロールシャッハテストの結果と内観の深まりとの関連を明らかにすることの2つである。ロールシャッハテストは,漠然図形を具象化するという特殊な課題設定のために,知(思考),情,意の3つの総合的な側面が反映されると考えられている。ロールシャッハテストの結果でもって内観の深まりを予測できるのではないかと考えている。
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