日本心理学会第82回大会において、「ネガティブなふと浮かぶ記憶・思考との付き合い方:認知・社会・臨床心理学からのアプローチ」というシンポジウムを主催・企画した。このシンポジウムにより、これまで主に臨床分野で研究されてきたネガティブな記憶や思考が、認知心理学や社会心理学では異なる名前で検討されていること、また、双方の知見の共有により臨床分野では治療法の根拠となる知見が、認知・社会心理学分野では研究の新たな意義が見いだせることが示された。 また、抑うつと反すう(ある苦痛の症状やその原因,意味,結果について繰り返し考えてしまうこと)が無意図的想起(思い出そうとしていないのに過去の出来事が意識に上ること)に与える影響を調べる実験を2018年5月~10月にかけて実施した。日常生活では、無意図的想起は意図的想起(思い出そうとしていないのに過去の出来事が意識に上ること)よりも3倍近く経験することが明らかになっている。また、抑うつや反すうにより、想起内容がネガティブになるなど好ましくない影響が生じる可能性が指摘されている。しかし、これらについての研究は十分に行われていない。そのため、本実験ではこれらの要因が無意図的に想起される記憶に与える影響を検討した。 さらに、前年度までの成果をまとめた論文として、抑うつが日常生活で意図的想起と無意図的想起に与える影響を経験サンプリング法(一日に数回、数日間にわたってランダムな時間にメールを送り、調べたい現象の報告を求める方法)という新しい方法で調べた研究を国外雑誌に投稿した。この研究では、これまでの研究方法の欠点を補う方法として、経験サンプリング法を用いて検討した点が高く評価された。さらに、無意図的想起がどのようにして思い出されるかについて調べた研究を国内雑誌に投稿した。
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