令和元年度は、前年度に引き続いて聴覚における同期タッピング課題における拍分割の影響を調べるための行動実験を行った。前年度に行った実験では、タッピングすべき音と音の間に余計な音を挿入すると、挿入しない場合よりもタッピングを音に同期させる精度が向上する傾向が見られた。本年度もこの実験を進め、被験者数を一定程度確保しても同様の結果が見られることを確認した。これまでの先行研究では、刺激提示における文脈情報がその後の知覚や認知処理が向上することは示されてきたが、それが行動にまで影響を与えることを初めて示すことができた。この結果については日本心理学会において成果報告を行い、優秀発表賞をいただくことができた。 そして実験2として、この同期タッピング課題における音の提示間隔に注目したタッピング課題を行った。先行研究では、刺激をパターンとして認識する際に刺激の提示間隔によって異なる効果が見られることが報告されているが、それが同期タッピングでも見られるかを確認するために、タッピングすべき音の間隔を複数用いて同期タッピング課題を行った。このときにタッピングすべき音の間に余計な音を挿入すると、音の間隔が短い場合に同期を妨害するような効果が見られた。この結果は、刺激提示における文脈情報の影響が時間依存的であることを示唆している。 研究期間全体を通した成果としては、途中で実験機器が使えなくなるという制約があったために当初の計画通りに進めることができなかったが、tDCSや行動実験を用いることで、刺激の運動や拍分割など社会的な文脈情報によって我々の知覚や行動が影響を受けることを明らかにすることができた。その結果をもとに2本の論文を刊行し、また心理学会における優秀発表賞を得ることができた。
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