本研究課題では,我々が意識せずとも行っている「呼吸」が人間の「心理的時間」に与える影響を明らかにすることを目的として実験研究を行う。1.精神物理学的アプローチでは,短い時間幅(数百ミリ秒~5秒)を対象とし,日常的に行っている呼吸によって心理的時間が時々刻々と伸縮していることを明らかにする。2.応用心理学的アプローチでは,長い時間幅(5秒~数分間)を対象とし,マインドフルネス瞑想(呼吸に注意を向け,自らの感情から距離を置く行為)によって,心理的時間が伸縮すること,さらにその生理的変化を明らかにする。 年度の前半では,予備実験で得られた,マインドフルネス瞑想の精度(信頼性)の向上効果を,様々な角度から調べ,そのメカニズムを調べた。さらに,他の認知課題として空間定位課題を用いて,瞑想の精度向上効果が時間知覚に限られたものなのか,それとも空間知覚にも認められるのか否かを調べた。その結果,マインドフルネス瞑想により我々の空間知覚が変化しうることを確かめ,論文執筆を行った。年度の後半では,こうした心理的時間の歪みが行動準備中にも生起することを検証した。こうした心理的時間の歪み現象は,非常に単純な状況下において見られることから,日常生活においても頻繁に生起していると考えられる。さらに,我々の心理的時間が歪められる現象を解明することは,人間の知覚メカニズムの時間的側面を明らかにすることができると考えられる。
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