海馬は記憶や学習において重要な役割を担っている。回避学習課題遂行1時間後に海馬のCA1ニューロンのシナプス可塑性が生じることは知られているが,課題直後からどのような可塑的変化が生じるかは明らかになっていない。そこで,本プロジェクトでは回避学習課題を用いてラットに文脈学習を訓練し,訓練後に生じる興奮性・抑制性シナプス前と後の時間的可塑性をpatch clamp法を用いて検討した。Paired pulse ratioはシナプス前で訓練後1分以内の早いGABA放出量の減少を明らかにし,western blottingは同様に早いGABAA受容体beta3(Ser408-409)のリン酸化を示した。加えて,miniature E(I)PSC (excitatory (inhibitory) post synaptic currents)の結果はシナプス後では抑制の入力が始めに強化され,その後興奮性の入力が強化されることを明らかにした。これらの興奮性と抑制性入力の多様性を定量化するため,本プロジェクトでは新たな解析手法としてエントロピーを個々のニューロンのシナプスの電流量から算出した。結果,それぞれのニューロンは異なる情報量を持ち,訓練後1分以内から増加し,この増加は60分間維持されることが明らかになった。このことから,訓練によって早い海馬シナプス可塑性が生じることが明らかになった。このような時間経過に伴うシナプス可塑性のメカニズムを解明することはアルツハイマー型認知症などの治療薬の開発に寄与するだろう。
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