研究課題/領域番号 |
16K17364
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
丹野 貴行 明星大学, 人文学部, 助教 (10737315)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 選択行動 / 意思決定 / マッチング法則 / ハト / オペラント行動 |
研究実績の概要 |
本研究の課題名は「形成」と「価値づけ」の機能分離による新たな選択行動・意思決定モデルの構築である。報酬に基づく選択行動・意思決定研究では、報酬の価値が報酬の率・量・即時性の3変数の積として表現されている。本研究では、3変数の前一者と後二者がそれぞれ「形成」と「価値づけ」という異なる行動的機能を有することを示し、この2つの機能を分けた新たな選択行動・意思決定モデルの構築を目指す。 この研究目的のもと、平成28年度の研究では、ハトのキーつつき行動を対象とした実験により、「率」と「量」の違いを検討した。2つの反応キーが横に並ぶ2選択肢場面において、体重を自由摂食時の80%に遮断されたハトのキーつつき行動に対して、時間的にランダムに食物報酬を随伴させる。これを基本設定としつつ、その時間の平均値を選択肢間で変化させることで報酬の「率」を、また一回当たりの餌の大きさを変えることで報酬の「量」を操作した。実験結果の詳細については【現在までの進捗状況】について詳述する。 またこれとは別に、反応パターンをより詳細に分析するべく、その確率モデル化に取り組んだ。これまでの研究で得られたラットのレバー押し反応のデータについて、その反応間時間(反応とその次の反応の間の時間間隔)の分布を作成し、それを適切に記述するモデルを検討した。その結果、2つの指数分布、あるいは4つの対数正規分布の線形結合が最も適していると判定された(Tanno, 2016, Behavioural Processes, 132, 12-21)。今後はこのモデルを使用して、「率」と「量」の条件間での反応パターンの違いを検討していくことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実験の概要】の部分で記した通り、ハトのキーつつきを対象として、左右2選択肢間でその食物報酬の「率」および「量」の割合を変化させた実験を行った。実験の結果、以下の3つの結果が得られた。(1)左右の選択割合は、報酬の「率」についての左右割合に一致し、いわゆる「マッチング法則」が再現された。(2)同じく「量」についてもマッチング法則が確認された。(3)実験開始前の先行給餌により食物報酬の価値を変容させたところ、「率」と「量」の両操作条件において、全体の反応数は減少したが、左右の選択割合には変化が表れなかった。まず(1)に関して、Herrnstein(1961, Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 4, 267-272)以後膨大な数の研究が示してきたマッチング法則が再現され、これより本研究での実験の頑健性が保証されたと言える。次に(2)に関して、「量」ではマッチング法則がしっかりとは確認されないというのが先行研究での見解であったが、本研究ではLandon et al. (2003, Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 79, 351-365)が提案した「量」の操作方法を用いたところ、「率」と同程度のマッチング法則が得られた。最後に(3)に関して、当初の仮説では「率」と「量」とで先行給餌の影響が異なることを予測していたが、仮説に反し、両条件間で違いは見られなかった。以上より、「率」と「量」に関して、現時点では大きな違いは見られていないということが言える。
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】及び【現在までの進捗状況】を総合すると、選択行動・意思決定における「形成」と「価値づけ」の機能分離に関して、当初は「率」と「量」の操作がそれぞれの機能に対応するという仮説であった。しかし現在までのところ、この2変数の行動への効果に大きな違いは見られなかった。これより、当初の研究計画にある程度の軌道修正を図る必要がでてきた。 軌道修正の方向性は「反応パターン」の分析である。ここまでの研究では、2選択肢場面において、選択肢間での選択割合のみを従属変数とし、「率」と「量」とで違いが見られないという結果であった。しかしながら、例え選択割合が同程度であっても、左右間での選択肢の切り替えパターン(例えば単位時間当たりに切り替え数)が異なるといったケースが先行研究でも報告されている。「率」と「量」の選択行動・意思決定への影響は本当に同一と言えるのか、反応パターンの分析を通してこれに回答するのが平成29年度の研究目的となる。 この目的達成に当たり、ある程度の準備は、すでに平成28年度の研究で終えている。ハトのキーつつき反応を実験データとして取得するのと並行して、これまでに取得したラットのレバー押し反応データを用いて、反応パターンの確率モデル化に取り組んだ。その結果、2つの指数分布、あるいは4つの対数正規分布の線形結合が最も適していると判定された(Tanno, 2016, Behavioural Processes, 132, 12-21)。今後はこのモデルを中心として、「率」と「量」の条件間での反応パターンの違いを検討していくことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(初年度の残額)は3186円であり、ほぼ計画通りの使用ができたと考える。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験等の消耗品費として使用される予定である。
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