研究課題
本研究は,地域の学習資源を集約し,効率的・創発的に生涯学習・社会参加を促す学習環境を地域のプラットフォームとみなし,その形成過程や機能,波及効果等を可視化することを目的とする。2017年度は,(1)地方創生に関わる地域自治組織・地域運営組織に関する事例研究,(2)超高齢社会に対応したコミュニティ組織に関する介入研究,(3)女性活躍や子どもの貧困対策を進めるパートナーシップの在り方,という3つのテーマを中心に研究を進めた。(1)については,2016年度に続いて,公民館や自治会などの地域の機関・組織を再編し,地域自治組織を中心に地域活動の促進を図る長野県飯田市の事例研究を行った。前年度に実施した調査結果も合わせて,地域自治組織が地域活動のプラットフォームとなり,再生エネルギーに関する先進的な取組や,中山間地域での少子化・高齢化対策が進められる過程を明らかにした。この研究については,日本公共政策学会や日本公民館学会などで成果を公表した。また,大分県佐伯市の学校・地域の協働組織に関する事例研究については,10年間の調査結果に基づき,地域における社会関係資本の再構築の過程をまとめた学会発表と報告書論文の執筆を行った。(2)については,所属組織の教員・大学院生と連携して,高齢化が進む千葉県柏市の豊四季台団地におけるコミュニティスペースの運営と,神奈川県鎌倉市の郊外住宅地におけるコミュニティ計画策定に携わった。具体的には,地域住民・地域団体を集めた複数回のワークショップを開催し,地域課題・地域資源の可視化,当事者意識の涵養,協働のためのルールづくり,アクション・プランの策定というプロセスの体系化を図った。(3)については,女性活躍推進に関する官民連携の先進事例のレビューと,子どもの貧困に関する政策レビューを行い,官民連携を進める上での課題について,それぞれ雑誌論文を執筆した。
1: 当初の計画以上に進展している
2017年度は,初年度の理論研究の成果に基づき,長野県飯田市の地域自治組織と,大分県佐伯市の学校・地域の協働推進組織に関する研究を着実に進めることができた。これらの研究成果について,雑誌論文の執筆や,複数の学会での発表や企画シンポジウムの開催等を行うことにより,他分野の研究者との交流を図ることができ,結果として研究視角を広げることにつながった。これに加えて,千葉県柏市の豊四季台団地と,神奈川県鎌倉市の大平山・丸山地区という2地区で,所属組織の教員・院生と共同して介入研究を進めた。具体的には領域横断的なチームにより,超高齢社会に対応した地域のプラットフォームを構築するための方法論の開発を進めた。この介入研究の実施にあたっては,理論研究・事例研究の成果を反映し,他の地域でも成果をあげてきた住環境点検などの手法を応用した。さらに,当初は想定していなかった,女性活躍推進や子どもの貧困に関する研究レビューを行うことができた。これらの研究により,前年度に実施した理論研究の適用範囲を広げることができたものと考える。以上のテーマに共通するのは,人口減少社会あるいは,少子高齢社会における地域課題の解決を自主的に行うための地域のプラットフォームづくりをいかに進めるのかという視点である。初年度は,教育学・行政学・経営学など,領域ごとのレビューを行ってきたが,これに加えて,複数のテーマに関する研究を並行して進めることによって,これらのテーマを包括する視点を獲得することができたものと考える。最終年度には,これまでの研究成果を統合することにより,地域のプラットフォーム構築に関する新たな知見を得ることができるものと考える。以上の点を総合的に評価すると,当初の計画以上に研究は進展しているものと考える。
今後の研究に関しては,2018年度が最終年度にあたるため,これまでの研究の総括を行う予定である。理論研究については,初年度に実施した行政学,経営学,教育学などの各領域の研究成果を踏まえて,地方創生・超高齢社会・女性活躍推進・子どもの貧困といったテーマごとのパートナーシップの現状と課題について,共通の分析枠組みによる整理を行い,研究成果を公表していく予定である。次に事例研究・介入研究に関しては,複数のフィールドの研究成果をもとに,得られた知見の整理を行い,理論化を図る予定である。それぞれの地域の特性に応じてどのような介入が有効なのか,どのようなタイプのプラットフォームが構築されると地域社会にいかなる波及効果を及ぼすのかなどを明らかにする。以上の理論研究・事例研究・介入研究の成果について,人口減少社会・少子高齢社会において,地域住民が自ら地域課題に関する学習を行い,課題解決の取り組みを進めていくための地域のプラットフォーム形成という観点から,研究の総括を行う。
2017年度は,当初の予定通りに研究を実施したが,介入研究に関しては,所属組織や,共同研究者の科学研究費補助金から支出がなされたため,想定より少額で研究を実施することができた。このため,次年度使用額が生じた。2018年度は研究の総括の年度であり,2017年度までに得られた研究成果の自治体へのフィードバックや,研究成果の学会での公表を予定している。加えて事例研究や介入研究も継続して実施するため,旅費は40万円程度になると想定している。また,事例研究や介入研究に関する資料整理やインタビューデータの筆耕等の謝金について,20万円程度を予定している。これと別に,地域で介入研究を実施する費用として,20万円を計上する。理論研究については,これまで行ってきた各領域の研究レビューの内容をまとめた,包括的なレビューを行うために必要となる書籍・論文の購入を予定しており,物品費は20万円程度になるものと見込まれる。これらの諸経費を合わせて,100万円程度の使用額を想定する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
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