本研究課題の最終年度となる今年度は,戦後占領期における衛生教育の展開が人びとにいかに受容され日常生活に浸透していったのか,また,占領期間後の保健活動にいかに継承されたのかを事例的に検討することを課題とした.具体的な研究内容は,以下の2点である. 1. 占領期における特徴的な衛生教育活動といえる「公衆衛生列車展覧会」について,各地に駐在した占領軍軍政部がこの展覧会をいかに把握し評価したか,千葉軍政部(CHIBA MILITARY GOVERNMENT TEAM)と栃木軍政部(TOCHIGI ~)のレポートを中心に検討した.内容は第120回日本医史学会総会・学術大会(名古屋)にて報告した. 2. 占領期間後に全国各地で展開された「蚊とはえのいない生活実践運動」に着目した.この運動は住民による組織的な衛生害虫駆除の取り組みであるが,「衛生教育」の文脈においてもその重要性が繰り返し強調された.そこでこの運動が衛生教育の観点からどのように捉えられ,また人びとの組織的実践や運動の拡大にいかに関係したのか当時の史資料をもとに考察した.研究成果の一部を第84回日本健康学会総会(長崎)にて報告した(続報を第121回日本医史学会総会・学術大会(2020年12月開催予定,東京)にて発表予定である). 本研究課題では,戦後占領期において「衛生教育」の理念やその内容,具体的方法がいかに議論され確立してきたのか,一次資料を紐解き解明することを目的とした.GHQ/SCAP文書の探索・収集,記述の読解には想定した以上の作業時間を要し現在も継続中であるものの,とくにこの時期に模索された衛生教育の理念が占領期間後の保健活動へと受け継がれていく過程を検証できたことは今後の研究につながる重要な成果といえる.本研究で得られた成果の公表は今後継続する予定である.
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