本研究課題の2年目となる2017年度は、「明治前期における地域医療環境の変容過程」の解明を目指し、研究に取り組んだ。具体的には、前年度の成果を引き継ぎ、1879年の松本地方を事例とし、明治期の「コレラ騒動」を公立病院史・医療教育史の文脈から再検討した。 まず、学術論文「1879年コレラ流行と公立病院―長野県松本地方の医療環境」(『地方史研究』第390号)を刊行した。当該地方の住民たちが、コレラへの対応として、学校教育や新聞メディアを通じて衛生思想の普及を図る姿が浮かび上がった。ただしその普及過程を郡ごとに比較した場合、医療・衛生をめぐる地域格差が生じていたことを明らかにした。ここから、明治期のコレラ流行により、地域社会で医療・衛生教育の必要性が高まると同時に、地域ごとの「公」益が分裂していく契機が生じたことを指摘した。 また、筑摩県庁文書「管内布達全書」(1874年、長野県立歴史館所蔵)の目録データ化を完了させた。当該史料には、筑摩県が発信した布達のうち214件が収録されている。そのすべてについて、件名や発信年月日、内容などを入力したデータセットを作成した。基礎的なデータとして、今後の研究に活かしていきたい。 本年度は、論文の取りまとめを中心に取り組み、全国学会誌の査読付論文を公表できた。最終年度となる2018年度には、論文投稿や学会報告を精力的に行い、これまでの成果を公表していく。と同時に、さらなる研究課題の展開を見通すべく、新たな史料の掘り起こしにもつとめていきたい。
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