研究課題/領域番号 |
16K17389
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
平田 仁胤 岡山大学, 教育学研究科, 准教授 (50582227)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウィトゲンシュタイン / 状況的学習論 / 規則 / 再組織化 / 権力 |
研究実績の概要 |
本研究では、暗黙のうちに前提とされてきた「学習=個の作業」あるいは脳内にある表象を操作するといった図式を問い直し、学習のメカニズムに状況や他者が不可欠であることを指摘した状況的学習論を批判的に検討することによって、より具体的な学習論を提示することにある。 平成28年度は、ヴィゴツキー学派の1人であるユーリア・エンゲストロームの活動理論の検討を行い、その結果、文脈を越境する過程を学習として定位できることを解明した。異なる状況・文脈においても言語が通用するという原初的信頼の感覚に基づき、新しい物語を紡ぎだすことによって、再組織化がなされていることを解明した。 平成29年度は、上述の知見に基づき、物語化の過程を分析し、また言語への原初的信頼の感覚について、ウィトゲンシュタイン哲学に依拠しつつ考察を進めた。再組織化の過程にある言語的基盤のありよう、すなわち、物語化の過程の分析や原初的信頼の感覚についてさらに精緻化した結果、以下の2点が明らかになった。ウィリアムズのウィトゲンシュタイン解釈によれば、教師の権力(authority)によって学習者は言語への原初的信頼を獲得し、ひとたびそれが獲得されたならば、自律的に言語を扱えるようになる。再組織化を支える言語的基盤が、教師の権力による教育によって整備されていなければならないことが明らかになった。また、ウィトゲンシュタイン哲学の独創的な解釈で知られるクリプキの共同体説を参照することによって、状況的学習論における状況概念が、「連続性-置換の矛盾に本来的な持続的緊張」をはらむ、生成・変容へと開かれているものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調であるとする理由は2点ある。まず、昨年度の研究によって明らかとなった、言語に対する原初的信頼の獲得が、教師の権力によって学習者にもたらされることを解明したからであり、そして、状況・文脈がそもそも生成・変容へと開かれているため、つねにすでに学習が成立していることを解明したからである。いずれも2つの学会発表およびそれらへの質疑応答によって精緻化できた。 だが、おおむね、という譲歩をつけざるを得なかった理由も2つある。第一の理由として、上記の知見を論文としてかたちにすることができなかったことである。先行研究の整理に時間をかけすぎたことが原因である。この点は次年度に論文投稿を行うことで、ある程度は補えると考える。第二の理由として、いまだ学習論の提示にはいたっていないことが挙げられる。ウィトゲンシュタイン哲学および状況的学習論の接点から、新しい学習論を模索する本研究課題にとって、結論部分となるはずの学習論がかたちとなっていないことは問題であろう。ただし、最終年度の研究を行うことで、この問題も補えると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では論文にすることのできなかった知見をかたちとして残す作業がある。その作業を優先しつつも、最終年度では、状況・文脈を越境する学習論の提示を試みることが必要であろう。 そのさい、ヴィゴツキー学派のエンゲストロームの議論を再精査するのみならず、ウィトゲンシュタイン哲学の知見も検討しなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、学会参加および関連書籍の購入に助成金を用いたが、予想よりも学会参加費が低予算で済んだため、差額が生じた。本年度中に、差額分のみで、学会参加および書籍購入は難しかったため差額が生じている。
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