研究課題/領域番号 |
16K17403
|
研究機関 | 神戸常盤大学 |
研究代表者 |
桐村 豪文 神戸常盤大学, 教育学部こども教育学科, 講師 (00637613)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | エビデンス / 消費 / 因果関係 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年我が国でも教育をめぐる議論で散見されるようになった「エビデンスに基づく教育」について、米国を事例に、その現実を明らかにすることを目的としている。 2年目に取り組んだ課題は、そもそも米国の連邦教育政策において称揚されるエビデンス(科学的根拠)は、なぜランダム化比較試験を頂点とする量的方法に限定されるのか、というその局限された「エビデンス」の形の謎を明らかにすること、そしてそのためにエビデンスをめぐる連邦教育政策の経緯とその根底にある文脈を紐解くことにある。 経緯の概略は以下のとおりである。1991年に、それまで民間で独自に開発されてきた学校改善モデルの開発を連邦政府が支援する政策として「ニューアメリカンスクールズ開発公社」が組織された。そこでは、すべての児童生徒のために、優れた学校改善モデルの開発、実施、普及を促進することが目指された。その結果7つのモデルが普及にまで至ったのだが、その普及の段階においてそれらモデルの活用を学校に促すため、連邦政府は「包括的学校改善プログラム」を開始した。そこでは、学校に対して「有効性が立証された手法、方策」を用いることを求めたのだが、しかしその時点で「有効性」が立証されたモデルはほとんどなかった。そこで連邦政府は、学校改善モデルそれぞれの「有効性」を分かりやすく示すよう、コンシューマー・レポートに範をとったガイドブックを発行した。 以上の経緯から明らかにされることは、教育とエビデンスがそもそも結びついたのは、背後に「消費」という自明の観念があり、学校改善モデルの普及の段階において、教師や学校、学区(消費者)に対して有効性(品質)を保証するための品質保証書を添付することが必要とされた。それがエビデンスだったのである。さらにいえば、「消費」という枠組みとは合致しない別の「エビデンス」の可能性も検討する余地がここから生まれるのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究2年目の研究課題は、米国のエビデンス政策の根底にある理念について明らかにすること、これである。しかしながら、この研究課題について取り組んだ結果を論文に起こすのが、大学(前任校)業務の多忙のため、遅くなり、現時点では論文の投稿中の段階であり、いまだ正式に発表するに至っていないため。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目は、米国で目下展開している、エビデンス市場の全体像について、調査を基に明らかにすることを計画する。より具体的には、以下の2つの研究課題に着手する。 (1)米国の教育界を席巻するエビデンス市場の一端を担うアクター(教育プログラムの供給者や、それを活用する学校、また仲介する米国連邦政府など)に関して調査を行い、エビデンス市場の実態を明らかにする。 (2)米国の教育界を席巻するエビデンス市場の一端を担うアクター間の関係性を網羅的に明らかにし、そのネットワークを図示することを通して、米国におけるエビデンス市場の様子を可視化する試みを行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
補助事業期間延長承認申請書を提出し、承認いただいた通り、本研究2年目(2017年度)では、所属校(前任校の神戸常盤大学)が本格的な教学改革を断行し、小生がその改革の一員として草案の作成や、それに関連して大学教育再生加速プログラムや私立大学研究ブランディング事業の申請書の作成・準備・実施に関わってきた。そのような中で、本研究の計画的実施は難しい状況にあった。その結果、次年度使用額が生じた次第である。 次年度(3年目)では、本来2年目に実施すべきであった以下の研究課題に取り組む。 (1)米国の教育エビデンス市場のの実態を、調査をもとに明らかにすること。(2)教育エビデンス市場の実態を、ネットワーク解析を駆使して可視化すること。(1)については、米国の教育エビデンスの生産者・消費者・仲介者等のアクターの関係や、近年の動向を中心に調査を実施する予定である。その調査のために、助成金を使用させて頂きたくお願いをする次第である。
|