現在米国では教育界でエビデンス政策が推進され、知を生産し消費するという循環が成り立っている。本研究では、その実態を明らかにし、またその循環の中で、エビデンス政策がより実効性をもって教育現場に根を張っていくために必要な条件の解明を目的としている。 【内容①】米国で90年代から進められてきたエビデンス政策には、消費の観念がその根底に伏在していることを明らかにした。米国では、子どもたちの学習改善のため、古くから民間の手によって学校改善モデルが様々開発されてきた。連邦政府は1991年にこうした民間の取り組みに目を付け、積極的に後押しする政策に打って出た。フェーズ1:開発(1992~93年)フェーズ2:実施・検証(1993~95年)フェーズ3:拡大(1995~2000年)と段階を踏み、モデルの開発・普及を図った。しかしフェーズ3で、モデルの多くが有効性を立証するエビデンスを有していないという問題が生じた。こうして次なる課題は、有効性を裏付けるエビデンスを生産することに至る。米国研究機構は、モデルの有効性を格付ける『教育者ガイド』を作成した。これはコンシューマー・レポートに範をとったものであった。 【内容②】生産されたエビデンスを消費するにあたって問題となるのが、「そこでうまくいった」から「ここでうまくいく」への飛躍を可能にする条件は何かという問いである。科学哲学者ナンシー・カートライトは、この問いに対して、垂直的探求と水平的探求の2つが必要であると説く。ここでは、INUS条件という考えのもと「因果関係」を捉え直すことが求められる。またそれら探究においては「科学者=証人モデル」によるガバナンスが必要とされる。 【意義・重要性】エビデンス政策を推進するうえで、その淵源に消費の観念が伏在していることに自覚的である必要がある。そのことによってはじめて、民主的なガバナンスへの道が開かれると考える。
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