最終年度は、教育意欲の地域的相違の現状やメカニズムに示唆が得られる可能性がある特定地域の高校生を対象としたデータを分析した。特に、所得が低いほど自宅から通える進学先を希望しやすく、所得が高いほど自宅外の進学を希望しやすいこと等を明らかにした。また、日本社会における教育達成の地域間格差の長期的趨勢や進学に伴う地域移動の長期的趨勢を検討する研究会に参加する機会を得たため、そのデータ分析作業を行った。 研究期間全体を通した主な成果としては、まず、教育達成の地域間格差のメカニズムを示す理論として欧米で検討されている地域住民の階層構造に注目した「伝染理論」と「集合的社会化理論」を、日本社会を対象にした社会データを用いて検討しその理論が傍証的には確認できることを明らかにした。ただし、既存の社会調査での上記理論の含意を十全な形で検証することの困難さと、上記理論を把握するためには別途の工夫の必要性も示唆された。また、社会調査等の国際的な動向などの先行研究の整理は十分な形では行えなかったものの、特定の都道府県内部における高校生の教育意欲の地域的相違の現状についても検討できる社会調査プロジェクトに参加することができた。そこでは、高等教育機関がある地域とない地域を比べると、高等教育機関がある地域ほど大学進学等を希望すること、高等教育機関がある地域では経済的な状況によって進学希望が異なるものの、高等教育機関がない地域では経済的な状況による違いはそれほどみられないこと等を明らかにした。ここからは、教育意欲の地域的相違には、高等教育の供給のあり方が関連していることが示唆される。以上から、教育達成の地域間格差のメカニズムを把握する独自の社会調査を行う上では、地域住民の階層構造や高等教育の供給の地域的相違が個人の進学意欲や行動に与える影響の経路を明瞭な形で識別し把握する工夫が必要なことが示唆される。
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