最終年度となった今年度は三点の研究成果があった。 一点目として、香港にて開催された学際的な国際ワークショップにて本研究の成果を報告し、海外の研究者からのフィードバックが大変有益であった点である。 二点目は本研究プロジェクト終了後に数点の論文にまとめていくにあたり、収集したデータを研究代表者の博士論文のデータも加えて質的研究ソフトウェア上で整理したことである。 そして、三点目として本調査の知見の一部を「アジアにおけるジェンダーと子育て」の視点でBookChapterとしてまとめたことである。この論文は今年中に出版の予定である。 最後に本研究の現段階での結論を以下に簡単にまとめる。 本研究では、世界で格差が拡大する中で、日本の富裕層の子どもの教育の一事例として「教育移住」と呼ばれる現象に注目し、研究課題名に「スーパー・リッチ・フライト」という呼称を用いた。調査の結果、日本の「超富裕層」が実践するというよりも、日本社会の一部のアッパーミドルクラス以上の家庭が実践する「グローバル・リッチ・フライト」の呼称がより適切な教育戦略であることを結論づけたい。日本の教育からの脱出の動機は、近年求められる「グローバル型能力」を子どもに獲得させる目的だけにとどまらず、海外生活を通した家族のより良いコスモポリタンなライフスタイルの追求、そして移住を通じて海外不動産への投資などを含め、グローバルな領域での家族の階級再生産の実践と考えられる。ハワイとマレーシアへの移住者を比較すると、ハワイへは比較的高階層の家族が移住する傾向にあり、移住先が家族の経済的階層によって序列化される傾向にある。一方で、マレーシアへの移住者は現地で獲得できる子どもの能力の意味を積極的に作り上げており、移住先によって異なるグローバル型能力観が生成されていることが分かった。
|