研究課題/領域番号 |
16K17413
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
王 帥 東京大学, 社会科学研究所, 研究員 (40743422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 奨学金 / 教育機会 / 教育費 / 授業料 / 進路希望 / 学生支援 / 高等教育政策 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本と中国における貸与奨学金の制度的デザインと効果の異同に基づき、貸与奨学金の在り方について検討することである。平成28年度は、以下の点についての研究を行った。 第一は、奨学金に関する政策文書の蒐集である。とくに奨学金制度及び授業料政策の変遷に着目し、日本と中国で公的文書と政策資料を収集した。 第二は、奨学金の支給・管理を行う政府機関へのインタビュー調査、及び大学への訪問調査の実施である。日本と中国における奨学金の政策意図、最新の政策動向と現状の課題などについてインタビュー調査を行った。調査を通じて分かったのは、学生の経済支援に関する理念の違いである。中国の経済支援は政府主導、かつ公財政中心であるのに対し、日本の場合は学生への公的な経済的支援を足りていないことなどが明らかになった。これによって、日本と中国における奨学金制度の特性を解明し、比較研究の分析枠組みの設計を行った。 第三は、日本で行われたアンケート調査の分析である。大学進学前と大学在学中の二時点における奨学金の認知と利用状況などの分析を通じて、低所得層の子どもの進学機会を保障するうえで、奨学金が大きな役割を果たしているものの、低所得層の家庭ほど、返済不安を理由に奨学金を応募しなかった割合が高いことなどが明らかになっている。また、中退者を対象とした調査では、現在の経済支援が中退者の学費や生活費の一部を補っている一方、大学在学中にアルバイトが多く、中退後も厳しい状況にあることも明らかになっている。 第四は、既存のアンケート調査の再分析である。中国の高校生調査と大学生調査の再分析を通じて、奨学金が進学選択への影響を細分化し、人的資本論モデルを用いて考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
奨学金に関する政策文書や資料を収集することができたほか、政府機関や大学の協力によって次年度に予定されるインタビュー調査が順調に実施することができた。これによって、日中の奨学金制度の社会背景や政策意図の異同を解明し、比較研究の枠組みを提供してくれた。また、定性的手法による研究のほか、定量的手法による既存調査及び新規調査データの分析も行ってきており、初年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。その成果を学会発表や投稿論文の形で報告した。初年度の研究成果は次年度に中国で行われる質問票調査の基礎研究となり、完成度の高い質問票調査が可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果と奨学金制度の歴史的変遷の整理をもとに、中国で奨学金の利用に関する質問紙調査を行う。クリーニングなどの作業を終えてからそのデータを用いて、中国における奨学金の効果を考察すると同時に、日本の既存調査を再分析する。また、日中両国の大学の担当者数名、及び奨学金の利用者数名を対象にして、計量分析だけで把握しきれない点をインタビュー調査で捕捉する。関連の研究成果を、学会あるいは論文で報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した中国の質問紙調査が、今年度は行えなかった。その理由としては、平成28年9月より調査対象となる省においては大幅な大学入試改革が行われており、高校生の進学選択への影響が大きいことである。制度改革の初年度でもあり、それによる混乱を避けるために、また、新制度の効果を追跡するために、今年度は中国の質問紙調査を行わなかった。次年度に行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
中国での質問紙調査及び海外調査に関連して使用する予定である。
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