研究課題
本研究は、大学進学前と大学在学中に着目し、貸与奨学金の制度面と利用面の双方から総合的かつ比較的視点で、貸与奨学金制度の効果を多角的に検証した。研究方法としては、文献研究、比較研究の手法に加え、既存調査の発展的分析及び新たな質問紙調査の実施・分析による定量的手法、政府機関や大学へのインタビュー調査による定性的手法を用い、多面的なアプローチによる貸与奨学金制度の効果を分析した。日本の既存調査の項目と枠組みを参考に、中国語版の調査票を設計し、中国で貸与奨学金制度の配分実態と効果に関するデータを確実に収集できた。日本の調査データと中国の大学生調査のデータを用いて、貸与奨学金の効果を考察した結果、貸与型奨学金が家計困難な学生に利用され、進学格差の是正及び家計負担の軽減に寄与することが、日中両国に共通した点として明らかにした。ただし、中国では給付奨学金制度の充実が日本と異なる点であり、給付奨学金による質の高い学習への奨励効果が中国の調査データから確認できた。日本では修学への経済的負担軽減に向けた新たな給付型奨学金制度が設けられているが、その利用の実態と給付奨学金の効果を包括的に考察する必要がある。また、奨学金の利用が拡大したものの、家計所得の低い学生は奨学金に対する認知度が比較的低く、返済への不安などの理由から奨学金の利用を回避するという傾向が両国にみられた。情報ギャップの存在や奨学金制度に関する不完全な理解、大学進学による期待便益と教育投資に関する意思決定能力の欠如を理由として示したが、その理由のいずれにおいても、経済支援制度のみで解決できる範疇を超えており、ライフデザインをする上で最低限身に付けるべき金融リテラシーが欠けていることが示されている。今後、奨学金の利用など具体的な金融行動の意思決定に至るまでの金融教育の効果を考察し、効果的な金融教育の在り方を探りたい。
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『貸与奨学金制度の効果に関する実証研究―日中比較研究 平成28~30年度文部科学省科学研究費(若手研究B)(研究代表者:王帥)研究成果報告書』/日本語版
巻: 1 ページ: 1-162
『貸与奨学金制度の効果に関する実証研究―日中比較研究 平成28~30年度文部科学省科学研究費(若手研究B)(研究代表者:王帥)研究成果報告書』/中国語版
巻: 1 ページ: 1-103
広島大学高等教育研究開発センター高等教育研究叢書・福留東土編『カリフォルニア大学バークレー校の経営と教育』
巻: 149 ページ: 107-116
教育費負担と進路選択における学生支援の在り方に関する調査研究 平成27~30年度文部科学省科学研究費(基盤研究B)(研究代表者:小林雅之)研究成果報告書/第4章/東京大学大学総合教育研究センターものぐらふ
巻: 14 ページ: 45-60