1~2年目には比較教育学的視点から、留学生受け入れ新興国であるマレーシアの高等教育機関の、伝統的受入国とは異なる戦略を分析し、また、留学生個人の教育から職業への移行を明らかにした。最終年度である今年度は、より開発研究の視点から、留学生の進路をとらえることを目的とした。 具体的には、必ずしも出身国に帰国しなくとも、出身国まで伸びる国境を越えた知識ネットワークを有し、出身国の経済成長や開発に生かせる枠組みである、トランスナショナル移民に着目した。2年目にマレーシアおよびオーストラリアで実施した現地調査の結果を分析し、元留学生のトランスナショナル移民としての特徴を検討した。元留学生の作り出す、マレーシアと出身国の二国間に留まらないトランスナショナル関係、および中継地点としてのマレーシアの新たな可能性についてまとめた。企業内転勤や家族移民とは異なる元留学生の貢献が、移民としての営為を特徴づけていることを明らかにした。 3年間の研究成果の集大成を博士学位論文にまとめ、2019年3月に大阪大学大学院人間科学研究科より学位を取得した。その他、『国際開発研究』(査読有)や『留学交流』(依頼原稿)への論文投稿、およびアジア比較教育学会、日本比較教育学会での学会発表など、成果の発信を行った。 本研究において、元留学生の出身地や専攻の違いによる、教育から職業・移民への移行過程の相違が浮かび上がった。留学という行為がもたらす個人的成果、および留学移動だけでなく労働移動も含めた国際移動の様相を明らかにするために、留学生の出身国を特定した分析を今後は進めていきたい。特定の送り出し国からの留学生の流入を解明するマクロ的な視点と、留学移民個人のミクロ的な視点の隔たりを埋めていきたい。
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