研究課題/領域番号 |
16K17429
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研究機関 | 宝塚大学 |
研究代表者 |
伊佐 夏実 宝塚大学, 造形芸術学部, 講師 (80601038)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会的不平等 / 社会的包摂 / 学校改善 / アクションリサーチ |
研究実績の概要 |
本研究では、社会的不平等を克服するために公立学校が果たす役割や可能性について、特定の学校を対象としたアクションリサーチによって明らかにするという目的のもと、以下2つの課題を設定している。①マイノリティ生徒の学校生活の諸相を多面的かつ継時的に把握する。②教職員と共同した調査・研究を実施することにより、社会的包摂に向けた学校づくりのための具体的な手立てを示す。 今年度は、1年目の課題として特に①に焦点を絞り、研究を展開した。具体的には、関西圏A市にあるA中学校を対象にしたフィールドワーク調査を実施した。A中は、周辺を山地に囲まれた比較的穏やかな地域にあるが、A市内では生徒指導上の課題が多い学校として認識されている。校区には同和地区や児童養護施設があり、単親世帯や就学援助率の割合も高く、少数ではあるもののニューカマー外国人生徒も在籍している。ここ数年、学校は比較的落ち着いているものの学力状況は厳しく、教師の頑張りにもかかわらず学力面での目に見える成果はなかなか出てこなかった。 調査は、平成28年度新1年生が入学した4月から開始し、かれらが中学校を卒業する3年間を追跡することで、社会的排除や包摂に関わる学校内プロセスを把握していく。その際特に、同和地区生徒やひとり親、貧困世帯、ニューカマーなど、多様な社会的背景をもつ生徒の学校生活や、教師の指導および学校体制について記録し、そこにある課題や問題点について検討をおこなった。 本研究は、3年間にわたる継時的調査を展開することで、学校改善のプロセスを解明するという点においてこれまでになかったものである。さらに、現場の教職員との協働によって、理論的かつ実践的な学校づくりについての示唆を得ること、学校研究における研究者の新たな役割を提示するという点においても独創的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主な成果は、①マイノリティ生徒の学校生活を多面的に把握すること、が中心であるが、学校改善に向けた取り組みとして、②学校が抱える課題について教職員とともに議論する場をもち、次年度に向けた具体的な方策を打ち出すこと、も行った。 まず①については、中学校1年生の教室に入り込み、学校が把握している各生徒の学力状況や生活背景等に関する情報提供を受けた上で、個々の生徒の様子を観察し、記録した。また、A県では、市内の中学生を対象にした学力テストが中学1年生と2年生の時点で実施しており、中3時には全国学力テストも実施されている。これらのデータについて、学校の協力を得て分析し、個々の生徒の学力実態を把握した。さらに、A中の全生徒を対象にした生活アンケートをあらたに実施し、分析を行った。この調査は、申請者がこれまで関わってきた他の地域での生活アンケートと同様の項目を使用しており、他地域の学校や生徒の結果と比較可能なものになっている。これらの質的、量的データを組み合わせることで、マイノリティ生徒の状況だけでなく、他の生徒の人権意識や社会観などについても検討した。 そして②については、これらの調査結果をもとに、管理職やミドルリーダーの教員と情報を共有する機会を設け、学校や学年、気になる生徒の課題について意見交換を行い、今後の取り組みの方向性について議論を行った。さらに、A中校区の小学校の教職員を対象とした研修を実施し、調査の趣旨を説明するとともに、各校の課題についての情報交換を行った。 以上により、1年目の進捗状況としては当初予定していた通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では引き続き同じ生徒を追跡することで、かれらが今後学校生活においてどのような課題に直面するのか、どのようにすればそれを乗り越えていくことができるのかを、精緻な実態把握と教職員との協働をもとに検討していく。 今後の具体的な作業としては、2016年度中学1年生を2017年度も引き続き追いかけ、教室での参与観察や聞き取りなどを実施する。また、学力テストの分析や生活アンケートの実施・分析についても継続して行うことで、1年間の変化やその要因についても検討していく。 さらに、2016年度の研究において中心的な課題としてきた、生徒の学力面や生活面での実態把握をもとにリーダー層の教師を中心に行ってきた取り組みの成果検証についても、様々な角度から行い、学校改善に向けた方向性について、引き続き考察していく。 学校改善の具体的な取り組みに関するアクションリサーチを実施する上で懸念されるのが、教職員の異動である。2017年には、これまで学校経営において中心的役割を担ってきた教職員が数名他校に異動するため、調査研究を進める上で再度信頼関係を構築していく必要がある。この点については、こまめに連絡を取り合うことや学校に足を運ぶことにより対応していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず、今年度支出を予定していたアンケート調査実施に関わる人件費について、時間的余裕等の事情から、今年度に限って申請者自身がデータ入力作業等を実施したため、予算を使用しなかった。また、データの整理等に関して学生アルバイトを1名雇用する予定であったが、これについては、データがある程度蓄積された2017年以降に行うほうが妥当であると判断したため、今年度は予算を執行しなかった。さらに、調査地への交通費についても、自宅から自動車を利用したため申請しなかった。そして、関連図書購入費については、他の研究との重なりを考慮し、大学の研究費から支出したため、予算の執行を行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度と同様に実施するアンケート調査に関わる人件費として、20万円を予定している。その他、統計処理に関わるソフトウェアについて、これまで使用してきたバージョンに追加しより複雑な分析に耐えうる新たなソフトウェアの購入費用として15万円を予定している。また、2017年度は住居の異動に伴い調査地への距離が遠くなるための交通費と、学会参加のための旅費として8万円を予定している。その他、関連図書購入費や消耗品費などを含めて適切に予算を執行していく。
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