最終年度にあたる平成30年度研究計画では、必要に応じて補足の調査を実施しそれまでの成果を研究発表・論文投稿するとともに、全体の成果をまとめることを中心とした。 前年度までのライフヒストリー・インタビュー調査による成果として、児童養護施設の文化伝達における「施設職員の生活経験」「施設内におけるケアと教育の葛藤」という論点を提示した。平成30年度は、「施設職員の生活経験」についての分析を関西大学教育学会誌『教育科学セミナリー』第50号へ投稿し、掲載された。続いて、「家庭・保護者とのかかわり」に焦点を絞って分析を行った。その結果、施設職員が子どもの保護者とのかかわりを通して、文化や価値観を見直したり自らの意識を変容させる様子を示した。この成果は『至誠館大学研究紀要』第6巻に投稿し、掲載されている。 以上の研究成果により、本研究では、児童養護施設の文化伝達が職員個人の人生観や家族観によって様々な葛藤が生み出されながら行われていることを示した。そして、施設の文化伝達は施設(職員)-子どもの関係だけで成り立っているわけではなく、子どもの保護者・家庭の文化も考慮した職員の実践によって成り立っていることを明らかにした 本研究の意義は、第1に、児童養護施設の文化伝達に焦点を絞り、職員の実践への解釈や葛藤を描いた点である。職員個人の課題に関しては、これまで労働環境の側面が中心に語られていたが、文化的な側面に注目することで職員の悩みや葛藤を多角的に理解することができるだろう。第2に、施設の文化伝達における職員と子どもの保護者との交流の重要性を詳細に示した点である。課題のある家庭であったとしても、施設では一方的な支援ではなく、双方向的なかかわりの中で子どもへの文化伝達が行われている。こうした文化伝達と家庭支援のつながりは、今後の児童養護施設の支援のあり方に関する議論をより深めるだろう。
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