研究課題/領域番号 |
16K17433
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
大滝 孝治 北海道教育大学, 教育学部, 特任講師 (90750422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 困難性 / 統計的確率 / 数学的確率 / 探究 / プラクセオロジー / Study and research path / 生態学的分析 / 教授人間学理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,確率学習の困難性の要因を,従来の認知的な視点ではなく,社会的・制度的な視点から説明・理解することである。そのための主な分析の手法は,教授人間学理論における「生態学的分析」というものである。それは様々な知識が特定の「環境」の中に生息したり,そこで絶滅したりする理由を多角的に探るための方法である(例えば,「学習指導要領」という環境や「教室」という環境)。 今年度は特に,中学校と高等学校の現行の学習指導要領(解説),教科書,非参与の授業の分析を通して,わが国の中等教育内での確率内容の生息の仕方と,そうした生息を可能にしている条件や生息を妨げる制約を明らかにした。これらの成果は,最終的には確率学習の困難性の要因を説明するための道具として使用される予定である。前年度までの予備研究と本年度の研究の成果の中心的な部分をまとめた論文を,現在国際誌に投稿中である。 また,本年度は「探究型の数学教育」に関する研究も進めた。これは従来の伝達型の指導とは異なる新しい教育のスタイルであり,近年国際的に注目を集めている。本研究では,この種の指導が確率学習の困難性の解消のための重要な条件の一つとなる考えており,来年度以降,実際にこの視点から確率の授業を設計・実施・分析する。こうした従来とは異なる指導法に基づく実験を行うことで,確率学習の困難性の要因に関する新たな知見がえられると期待される。 さらに,本年度は「場合の数」領域の内容の分析も行なった。研究を進める過程で,場合の数の生息状況と確率の生息状況とが密接に関連しており,場合の数の内容構成が確率学習の困難性の要因の一端を担っている可能性がある,ということが明らかになってきたからである。この分析の成果は,すでに英語論文としてある程度まとめることができている。来年度以降にさらに修正を加え,国際会議での発表や国際誌への投稿へ進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カリキュラムや授業の分析を通して,確率学習の困難性の要因の社会的側面からの解明に資する様々な現象を特定することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の主な作業は,より望ましい確率の生息状況が実現されるような確率授業をデザインし,教授実験を行なうことである。この取り組みについては,当初高等学校での実現を予定していたが,研究協力者の袴田綾斗教諭(広島大学附属中・高等学校)の高等学校数学の担当科目の関係で,今年度の高等学校での実施が困難となった。しかし,中学校2年生の確率単元は指導するとのことであるため,計画を変更し,中学校での教授実験の実施を目指す。このような変更は研究の進捗には影響を与えないと考える。 また本年度は,申請時には研究計画に含んでいなかった,海外研究機関の訪問を行う予定である。コペンハーゲン大学のCarl Winslow教授のもとに約一ヶ月滞在し,氏や氏の研究室のメンバーとの議論を通して研究を進める。Winslow氏は本研究の基盤である教授人間学理論の専門家であり,特に教授実験を企画・実施する際に中心的な役割を果たすStudy and Research Pathという概念に造詣が深い研究者である。すでに氏とはコンタクトが取れており,9月にコペンハーゲンに伺う計画で話を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった書籍を,事務手続きの関係で購入することができなかったため。取り扱い対象外の出版社とのことであった(La Pensee Sauvage社,フランス)。
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次年度使用額の使用計画 |
書籍の購入計画を見直し,別の必要書籍の購入費にあてる。
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