前年度までは主に「教えるべき知識」(学習指導要領や教科書の内容)としての確率の視点から,確率学習の困難性の要因を特定してきた。最終年度にあたる本年度では,確率学習に大きな影響を与えうるもう一つの要素である「教師」の視点からの研究を進めた。その際には,特に教師が授業を準備したり反省したりする方法(例えば,授業研究)に焦点をあてた。その理由は,教師の授業計画次第で,教科書の内容がどうであれ,確率学習の困難性は消失すると考えられるからである。結果として,教えるべき知識の性格が生み出している確率学習の困難性を,教師自身が授業デザインによって乗り越えることが難しいことが明らかになった。それは,そうした確率学習の困難性の要因が,一時間から数時間の授業というよりも,より大きな領域構成の仕方に由来している一方,教師は通常,その専門性としてそのような比較的大きな内容構成を考えることを習慣としていないからである。 また,本年度は昨年度に実施した教授実験の分析も主たる作業として行った。この授業では,従来「応用問題」のような位置づけの問題を「導入問題」にし,確率を特定する上での「シミュレーション」と「計算」の行き来を強調した。しかし,この教授実験でも,本研究が目指すような確率学習は単元全体としては生じなかった。この結果を手掛かりに,教えるべき知識の性格に関わる新たな制約を明らかにすることができた。 3年間という期間全体を通した本研究の成果は,大きく分けて次の3つである。 1. 教科書や実験授業の分析を通して,「教えるべき知識の性格」という視点から,確率学習のいくつかの阻害要因を特定した。 2. 授業研究の分析を通して,「教師の専門性」という視点から,確率学習のいくつかの阻害要因を特定した。 3. カリキュラム開発や授業デザインを分析するための新しいモデルを構築した。
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