本研究の目的は、シティズンシップ教育を支える理念である「ケアの倫理」の考え方を取り入れた教科・領域横断的な道徳教育カリキュラムについて、日本の中学校での開発・実践・評価を基に考察を行うことである。同時に「正義の倫理」に基づく欧州のシティズンシップ教育の事例を研究することである。 3年目となる今年度は、「ケアの倫理」に基づく中学校3年間の道徳教育カリキュラムについての成果を検討するため、卒業生にインタビューを行い、生徒の学びの様子からカリキュラムの検証を行った。具体的には生徒の学びが3年間でどのように深化していったのか、それを支える要因は何であったのかについて明らかにした(橋崎、小嶋 2018、2019)。同時に教師が子どもの声をどのようにカリキュラム開発に反映させているのかについても考察を行い論文化や学会での提案を行った(小嶋2018)。また教員養成課程の中でも開発した実践を用いて学生と議論を行った(橋崎、板橋、梶尾、後藤2019)。 同時に、「正義の倫理」を中心におく欧州評議会のシティズンシップ教育カリキュラムについて、コンピテンシーモデルの作成過程や背景理念の考察を行ってきた(橋崎2018、川口・橋崎2018、橋崎・川口2019)。 本研究全体として、中学校の3年間の教科・領域横断的な道徳教育カリキュラムを現場の教員と協力しながら作成することができた。生徒の学びの様子についても、参与観察やワークシートを収集し、自己、他者、社会についての認識やかかわり方がどのように変容していたのかを考察することができた。またその研究成果を教員養成にも関連させ実践を行った。欧州評議会のカリキュラムの枠組みについてもその特徴の一部を示すことができた。今後は、ケアと正義の倫理の視点を意識し、シティズンシップ教育に関する示唆を引き出し提案につなげていく。
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