本来最終年度に行う予定だった、残された課題である言語を超えた詩創作評価指標の構築を行った。 Dymoke(2003)の評価フレームワーク(注・中井(2013)において訳出・引用されている)を使用し、独立した評定者が74編の詩それぞれを評定した。9%という極めて低い評定者間の一致率に注目し、詩を評価するための「語彙」が共有されていないことを改めて確認することとなった。詩と評価コメントを分類するためにそれぞれの独立した評定と調整・決定した評定に基づいて、74の詩への評価コメントを群平均法によりクラスタ分析(cohentic r=.690)を行った。評定者間および調整した評定値に差がない1,4,5,7クラスタ以外のクラスタ(2、3、6、8クラスタ)で理解に相違が表れた語彙を抽出し、フレームワークに含まれた2つの要素(想像力、詩的形式)を解体し、さらに使用されている語句をこの作業の中で解釈し直した語句におきかえた。 語句を置き換えてもなお語彙の理解の一致をめざすことは困難である。もともとのフレームワークが英国のGCSE(義務教育終了時に受ける中等教育修了一般資格試験)の作文評価のためのフレームワークを参照して作成されていることを踏まえると、日本においてもこれまで蓄積されてきた評価の語彙を整理した上で両者を付き合わせる作業が必要であった。 細かいレベルの再検討が必要となったものの、この考察において、「想像力」と「詩的形式」の二つの要素に解体したことは、子どもの詩を見る視点を改めて構造化することを意味している。その知見に1人の日本の小学生によって6年間にわたって書かれた詩集の解説を執筆した。学年が上がるにつれて、身近なものを変形させる(想像力起点)の地点から言葉そのものへ視点が変化していること(詩的形式起点)をつきとめ、2つの角度から詩を見ることが書く力が発達する道筋を示す可能性を示した。
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