学校の教育活動全体を通じた道徳教育のあり方について、知的探求それ自体に含まれている「知的な徳」の内容を分析した。それにより、各教科での学習に含まれる道徳的な側面を明らかにし、内容に基づくアプローチではなく、形式に基づいたアプローチによって、学校の教育活動全体を通じた道徳教育のカリキュラムを構想する可能性を指摘した。 具体的には、知的な徳に関する応答責任主義において「教育」が大きな役割を果たすことと、それが教育哲学における「教育」概念分析とも合致することを確認した。そのうえで、応答責任主義が重視する知的な徳のうち、「開かれた心」と「知的な謙虚さ」に関する徳認識論の議論を整理し、それらが発揮されるためには自分とは異なる他者の意見に耳を傾ける態度が求められることを明らかにした。また、伝聞においても、他者の意見を尊重しない雰囲気が、集団による知的探求の深まりだけでなく、尊重されなかった側の知的な徳(たとえば、知的な勇気)の形成を妨げうることを確認した。 これらから、各教科での学習において知的な徳を育むことが、他者の意見に耳を傾けたり、他者に誠実に自分の得た知識を伝達したりする活動を含む点に、道徳的な側面が見て取れることを導いた。そのうえで、知的な徳と道徳的な徳の関係をめぐる諸議論を比較検討し、内容に基づく場合にはそれらを分ける必要がある一方で、形式に基づく場合には共通する点を見出すことができると主張し、他者を顧慮するという形式に基づいた学校の教育活動全体を通じた道徳教育を提案した。これにより、道徳的価値を各教科の学習に結びつける以外の仕方で学校の教育活動全体を通じた道徳教育のカリキュラムを構想できることを示した。 成果は日本道徳教育方法学会にて発表するとともに、『道徳教育方法研究』第23号に掲載された。また、『愛媛の道徳教育』にも寄稿し、学校現場への研究の還元を行った。
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