研究課題/領域番号 |
16K17452
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
花坂 歩 大分大学, 教育学部, 准教授 (20732358)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 読みにおける想像力 / 直接対話 / 読書空間の創出 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、読書における豊かな想像の創出を目指して、(1)「少人数」という学習形態の実践的探究、(2)「読書教育に取り組む様々な人材が集う場(=アゴラ)」の構築の2点に取り組んだ。
(1)については、小学校教諭4名の協力を得て、「少人数」に着目した授業開発を4本行い、1本の論文(「道徳科」における言葉の学習」)にまとめた。一般に「少人数」というと、数名のグループにわけての学習活動をさすと考えられるが、本研究では、より広義に考え、直接対話が成り立つ学習形態を想定している。そのための基礎研究として、代表者は読書空間に関する論文3本(「間テクスト性概念は授業をどこに導くのか」、「学習材開発のための「言語環境」考」、「「話すこと・聞くこと」におけるリアリティ」)を発表した。これらの論文によって、豊かな想像を生み出す上で「子ども」という主体の検討だけではなく、主体(子ども)と主体(子ども)を関連づける空間性の考察が極めて重要であることが確認できた。
(2)については、大分大学学術情報拠点(図書館)主催の「大人向けの読み聞かせ会」(11月29日14:50~16:10)と連携して、読書空間の創出に関する予備的実験を行った。これは社会教育施設の活用・連携を考察する上で極めて有益であった。また、大分県小学校教育研究会国語部会の夏季中央研究大会(7月)、大分県豊後大野市図書館活用教育TRY研究発表会(11月)での講演にて、読書空間作りについての講演を行い、広く質疑を求めた。これらはアゴラ構築構想を広めるとともに、その素地を固めることに役立っている。この他、1月には大分県小学校教育研究会国語部会の事務局会議に出席し、研究協力者らとともに、授業における少人数指導の重要性について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的(1)の基礎理論の研究、授業実践研究は順調に進んでいる。研究目的(2)の「読書教育に取り組む様々な人材が集う場(=アゴラ)」の構築も公開講座での具現化を見越して、周知徹底や会場確保に取り組んでいる。どちらとも、おおむね順調に進展している。
(1)の基礎理論の研究については、論文3本(「間テクスト性概念は授業をどこに導くのか」、「学習材開発のための「言語環境」考」、「「話すこと・聞くこと」におけるリアリティ」)によって順調に行えている。これらの論文は、順に、教材(テクスト)と教材(テクスト)の相関性、子ども同士の相関性、音声言語における相関性について考察したものである。授業実践研究は、読みにおける「情動」の触発に注目し、道徳科との連携を試みた。これは読みにおける情報の取り出しの側面、読み味わう側面の相互活性を考察する上で極めて有益だった。また、論文にはできていないものの、同じく「情動」に注目して、「読むこと」に色彩心理学を応用した活動型の授業を2度、実践した。これらは主に、情景描写に触発される情動を具現化しようとしたものであるが、児童の発達段階に応じて、自由な想像に対する文化的制限には強弱があることが確認できた。
(2)のアゴラ構築については、社会教育施設としても活用されている大学図書館との連携を強め、代表者自らが絵本の読み聞かせをするなどして、読書空間の創出を試みた。本を読み、声が響き、その本について語り合うという場を体験的に考察できた。また、この読書会では社会教育施設の担当者との連携の取り方について、実践的に検討することができた。加えて、生涯教育の充実を担っている大分大学高等教育開発センターとの連携を強め、現在、公開講座の開催を協議しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的(1)について、30年度は「音読・朗読・群読」を取り入れた実践研究に取り組む。すでに実践協力者の他、小学校1校(授業者3名)、中学校部会(授業者1名)から協力を得られることになっており、現在、児童の実態、使用教材、実施時期の検討を行っているところである。代表者による基礎研究としては、主に、フッサールの現象学を中心に、メルロポンティの身体哲学からも重要な示唆が得られるのではないかと考え、探究を進めている。また、情動や想像の自覚化・具現化として、「読むこと」では1980年代の分析批評運動の功罪、「書くこと」の特質については生活綴り方教育の功罪から、貴重な示唆が得られるものと考えている。これらの基礎研究の成果を授業実践に生かしていきたい。
研究目的(2)について、研究協力者会議を複数回実施し、授業を検討する。また、県内外の学習会からすでに多くの招聘がある。その場を利用して、読書空間の創出についての幅広い議論を行いたいと考えている。また、大学の高等教育開発センターと連携し、音読・朗読に関する公開講座を実施する計画である。29年度の読書会を発展させ、地域に開かれた学術研究の場を構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)コストカットにより、当初予定より若干の残金を生むことができた。
(使用計画)消耗品、書籍等の購入にあてる。
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