本研究は,市民や教員志望学生を対象にした地域の歴史資源を活用する歴史実践プログラムの開発と評価を通して,民主主義社会への貢献をめざした歴史実践を可能とする学校歴史のあり方を考察することを目的としている。具体的には、(1)市民の歴史実践(歴史ガイドツアーなど)の特質や課題は何か、(2)歴史実践に向けた学校歴史(日本や米国の歴史教育)の特質や課題は何か、(3)(1)(2)をふまえた地域の歴史資源を活用する歴史実践プログラムを実施しての課題は何か、(4)(3)をふまえ歴史に主体的にかかわる主権者を育成する学校歴史はどうあるべきか、以上4点を4カ年で明らかにしていくこととしていた。 これまでには主に市民あるいは教員志望学生による歴史実践プログラムの分析を行い、市民による歴史実践では、聞き手となる子供たちの学校歴史の学びへの配慮があまり見られないこと、また教員志望学生による歴史実践では、学生がこれまでに受けてきた学校の歴史学習や平和学習などが戦争の悲惨さを強調する傾向だったことからそれに影響されがちであることを明らかにした。 令和4年度も引き続き新型コロナウイルス感染症対策が求められたため、地域の歴史資源を活用する大規模な歴史実践プログラムの実施はできなかった。小規模ながら鹿児島にて中学生を対象としたワークショップを開催することはできた。従来の証言を読む活動に加え、ドラマの手法を用いて、出生前の家族写真を再現し、インタビューを受ける活動を取り入れたが、活動時間が短かったためか、中学生が当時の人々の多面的な感情を語ることはできなかったことが課題となった。学習者のトラウマになることは避けながらも、学習者が取り上げる戦争体験や活用方法を選択し、他者と共有可能な記憶として伝承したり、戦争体験に関連する現代の公的議論に参加したりする具体的な手法を考案することが必要だと結論づけた。
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