本研究では,クレッチュマーおよびケステンベルクの音楽教育改革を音楽的な「市民」の育成という視点から再考し,その特質を検討した。その結果,クレッチュマーの改革では,ドイツの全国民を音楽育成の対象としながらも,19世紀的な「教養」が有する特権意識が残っており,その視点から「市民」の音楽育成の拡充を図っていたこと,ケステンベルクの改革では,音楽育成を受ける対象が全国民へと拡大される中で,階層などの属性によって異なっていた音楽的な理想像が,「ドイツ国民」という括りで統一されていったことが明らかになった。
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