本研究では、国際比較を意図する大規模な教育調査のデータを資源とし、日本をはじめとする高い数学学力の国の特徴を捉えるとともに、そこから得られる知見を低い学力水準と称される途上国の実態を探る手がかりとし、理数科教育協力に繋がる示唆を得ることを目的とする。 一般に、途上国の数学や理科に関する学力水準は低く、学力向上は、教育の質を論じる上で不可欠な視点の一つであり、理数科学力の向上は、理数科教育協力における根本的な課題である。理数科学力の向上を考えると、数学と理科という異なる教科に目を向けるべきであり、数学と理科を互いに関係付けることに教育的な価値があることが知られている。そこでPISA2003とPISA2012のデータを二次分析し、理数科学力の関連性を調べたところ、理数科学力の水準が途上国では、数学と理科に関する学力の関連性が高い国と比べて小さいことを捉えた。 また、日本の数学的リテラシーにおける解答パターンの変化をPISA2003とPISA2012のデータを用いて分析したころ、PISA2003とPISA2012の間にテスト得点からみた学力水準および困難度のパターンの全体像に目立った変化はみられないが、確率・統計に関する領域の項目の難易度が低下する傾向を捉えた。大きな変化ではないとしても、2008年改訂の学習指導要領に中学校数学科で確率・統計が設定されたことの現れとも考えられる。 PISAは、学力向上への政策転換に繋がるエビデンスとして影響を与えたり、全国学力・学習状況調査においても、PISA型と呼ばれるような問題が設定されるなど、小さくない影響を及ぼしている。PISAの公開データを活用し、様々な情報を抽出する取り組みは、今後重要性を増すと思われるため、大規模教育調査の活用法を含めて、今後検討していく。
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