本研究は、19世紀末~1970年代の日本とアメリカ合衆国を対象とし、「正常児」とも障害児とも判定されなかった学業不振児への教育実践とそれを支えた思想はどのようなものであったのか、そして学業不振問題が当時の教育制度にどのように位置づけられていくのかを明らかにすることを目的としたものであり、通常学級と特殊学級の間に位置する子どもに関する公立学校制度の受容と排除の曖昧さを考察するものである。 最終年度である平成31年度は、これまでの研究成果を踏まえて、日米における学業不振問題について総合的に検討した。特に、前年度の研究遂行中に生じた新たな研究課題に取り組み、海外の学会にてその成果を公表した。 具体的には、1900年に寄宿制の私立学校を創設したM. P. E. グロスマン(Maximilian Paul Eugen Groszmann 1855-1922)に焦点を当て、非定型児(明確な障害はないが、平均から少し異なる子ども)に対する生活面も含めた管理・指導と彼らの複雑性を可視化する包括的検査を実施する寄宿制私立学校という空間(space)の意味を検討した。グロスマンは、子どもたちが生活している場において継続的な観察・記録による測定を実施し、子どもの身体・精神面の管理を実現させた。非定型的な発達は複雑な要因が混じりあった結果生じるものであり、それらを細分化して測定し、それぞれの要因に対し個別的に対応することは不可能であった。グロスマンは、当時の公立学校や家庭ではそのニーズが満たされることのなかった非定型児を、通常の社会からは分離された寄宿制学校という統制された場において、子どもの生活経験をトータルに把握しようとしたことが明らかとなった。 研究成果は、オハイオ州で開催された教育史学会(History of Education Society)で口頭発表を行った。
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