研究課題/領域番号 |
16K17486
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
谷口 知大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (90635806)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 磁性 / マイクロ波アシスト磁化反転 / 非線形ダイナミクス / 理論 |
研究実績の概要 |
本年度はマイクロ波アシスト磁化反転(Microwave Assisted Magnetization Reversal, MAMR)におけるマイクロ波源として期待されているスピントルク発振器の磁化ダイナミクスの理論解析を行った。MAMRは磁気記録媒体の磁化とスピントルク発振器の磁化が磁気双極子相互作用を行うことにより生じる。従ってスピントルク発振器の磁化ダイナミクスの理論を確立することは研究上極めて重要である。MAMRにおけるスピントルク発振器として従来は磁気トンネル接合など垂直電流型構造が提案されていたが、この構造ではスピントルク発振器と記録媒体が直交しているため、スピントルク発振器が作る円偏光マイクロ波が記録媒体から見ると線偏光になってしまう。MAMRは円偏光マイクロ波を使うことで磁化反転を選択的に行えるという特徴を備えているので、スピントルク発振器から照射されるマイクロ波は円偏光が望ましい。 そこで本年度はスピン・ホール効果に基づいたスピントルク発振器の理論提案を行った。スピン・ホール効果は面内電流型構造で実現する物理現象であり、垂直電流型素子とはスピントルク発振器の向きが直交しているため、発振器が作る円偏光マイクロ波がそのまま記録媒体に照射できる。ただしスピン・ホール効果に基づくスピン・トルク発振器では誘起出来る磁化ダイナミクスに構造的な制限があった。本研究では従来のスピン・ホール型スピントルク発振器に別の磁性体を接合することでスピン・ホール効果によるスピン生成の自由度を高まることを示し、その利点を活かすことでMAMRに求められる円偏光マイクロ波を発生する発振が誘起出来ることを理論およびシミュレーションによって示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該研究に対してPhysical Review B誌、Applied Physics Letters誌などの国際誌に論文を4報(全て査読有)掲載し、学会発表も行うことができたので、当初の計画上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
新年度も研究計画に従ってマイクロ波アシスト磁化反転の理論研究を進める。マイクロ波アシスト磁化反転ではマイクロ波を照射する発振器と受ける磁気記録媒体との結合が多様な磁化ダイナミクスを引き起こしていることが明らかになった。そこで新年度は引き続き結合ダイナミクスの理論解析を進める。特に非線形力学の分野で発展された同期現象に関する理論は結合系の基本的な性質を理解するうえで極めて重要であるので、非線形力学のアイディアを取り込みながら磁化ダイナミクスの解析理論を発展させる。 また実験ではデバイスの構造から様々な制限が存在することも明らかになった。例えばマイクロ波アシスト磁化反転の実験では磁気記録媒体に磁場を印加して反転をアシストすることが普通であるが、この磁場がスピントルク発振器にも当たってしまう、ということがある。このような実験に存在する制限等を考慮した理論を構築することでマイクロ波アシスト磁化反転の実証に貢献するとともに、現状の制限を解決しより効率的なマイクロ波アシスト磁化反転を実現するためのデバイス構造の理論提案を行っていく。
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