研究課題/領域番号 |
16K17487
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
木下 幸則 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (10635501)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 磁気力顕微鏡 / 磁場値 / 超常磁性 / ベクトル検出 / 磁区ドメイン |
研究実績の概要 |
本研究は、磁性体試料から発生する漏れ磁場の垂直と面内両方向において定量値の計測が可能で、ナノメートルスケールの空間分解能を有する磁気力顕微鏡法を開発する事を目的とする。磁気力のみの抽出が可能な磁気力変調方式の磁気力顕微鏡に、磁化方向が磁場に完全に沿い、ヒステリシスの無い超常磁性合金を探針材料として新規に取り入れ、また、探針を垂直方向とねじり方向の2方向で同時励振させる手法を用いて、磁場の定量値のベクトル分解検出を実現する事を特徴とする。H28年度は、顕微鏡の試作に向けた2軸電磁石の試作を中心に、以下の項目を実施した。 1, ゼロ位法を用いた磁場値のベクトル分解検出の定式化 これまで計測実績のある垂直方向に対する磁場の定量計測法を拡張する事で、探針の面内振動を用いた面内方向の磁場値の計測理論を構築した。これらを組合わせて、垂直/面内磁場値の同時計測を可能にする理論を構築した。 2, 面内と垂直の2方向で直流と交流の磁場の発生が可能な電磁石の試作 試料ステージ下のΦ20cm×40cm程度の限られた円柱状空間に設置可能な、2軸磁場印加電磁石の設計を行った。これまで開発してきた垂直電磁石(最大磁場>6kOe)と面内電磁石(最大磁場>3kOe)を小型化し、面内電磁石の対向コイルの間に、垂直電磁石を配置する事で、観察対象試料の中で最も磁場の大きいFePt系の薄膜永久磁石等に対しても表面磁場をキャンセルするに十分な磁場強度が得られる事を計算で明らかにした。実作業としては、現有の面内電磁石コイルの主磁極の方向を垂直に変えたものを垂直電磁石として試作し、2軸磁場印加電磁石の顕微鏡内への設置が可能な事を確認した。また、磁極の温度上昇による探針の位置ドリフトを防ぐために、銅パイプを用いた冷却機構を設計、試作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに計画していた3項目、1.二方向で直流/交流磁場を印加が可能な電磁石の設計、2. 探針のねじり振動検出に必要な光てこ変位検出系の広帯域化、3. 高磁化率・超常磁性ナノ粒子膜の開発、に関して技術的に重要な課題は、試作レベルではあるが、ほぼクリアできているため、概ね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、2軸電磁石と広帯域光梃子変位検出計の開発を完了させ、磁気力顕微鏡の調整・改良のフェーズに移行し、面内と垂直の磁場値の同時イメージング実験を開始する事を目指す。まず、今年度に試作した2軸電磁石と光梃子変位検出計を磁気力顕微鏡に組み込み、変調磁場による磁性探針の磁化の変調条件を最適化する。面内方向の感度の確保が課題であるが、面内電磁石の対向磁極の形状や配置を精密に調整して、探針位置での面内磁場の勾配を最大化する事で対処する。次に、ミリメートルサイズのバルク永久磁石をサンプルとして漏れ磁場の定量値をマクロスケールでマッピングし、ゼロ位法を用いた磁場の定量計測法を実証する。ここでは、ホール素子等で磁場分布等を計測し、その整合性を確認する。これらの2項目が終了次第、高記録磁気記録媒体などの実用磁気デバイスをサンプルとした実験に移行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料磁場をキャンセルするための磁場を発生する2軸電磁石の開発に際して、当初の想定よりも小さい電流で十分な磁場強度が得られる事が判明したため、当初購入予定であった面内磁場電磁石を駆動するための大電流(~20A)印加が可能なバイポーラ電源を、現有の低電流の電源を流用する事にしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
主として電磁石の出力調整用の機械部品、および光てこ式変位検出回路の作製など顕微鏡の作製費に当てる。その他、磁場値のイメージングに必要なサンプルの作製やシリコン探針の購入に使用する。
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