平成29年度は、量子セルの候補化合物を合成化学的に探索し、その物性評価を行った。レドックス中心としてフェロセンに注目し、これを共有結合で連結したビフェロセニウムを基本の混合原子価ユニットとして検討を行った。またルイス酸性部位として、空のsp2軌道を有する三配位ホウ素置換基を選択し、ビフェロセニウムに共有結合で導入した新規混合原子価ルイス酸を開発した。この混合原子価錯体は、1電子酸化した溶液中で、フェロセン―フェロセニウム部位間の原子価間電荷移動吸収を示した。これにより、ホウ素置換基を導入してもビフェロセニウムに特徴的な電子状態を維持できることが確認された。さらに、ルイス塩基であるシアン化物イオンの共存下では、原子価間電荷移動吸収が大幅にブルーシフトし、外部から電荷を導入することで混合原子価錯体の電子状態を改変できることを見出した。この成果は、分子デバイスの候補化合物の性質を化学的に制御できる可能性を示した点で意義が大きい。原子価互変異錯体において外部電荷による電子状態の制御した報告例があるが、本研究では本質的に等価なレドックス中心からなる混合原子価化合物において達成した点が、分子デバイスへの応用の観点から重要である。 研究期間全体を通して、レドックス中心を共有結合で連結した分子性化合物において、外部から金属イオンやゲストアニオンを導入する手法を開拓し、電子状態に及ぼす効果を明らかにした。
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