本年度の研究において、室温酸化鉄原子層堆積プロセス構築のために、酸化鉄の前駆体となるジイソプロピルプロピオンアミジネートアイロンの吸着過程と酸化過程を多重内部反射型赤外吸収分光によって評価を行った。上記の表面反応の観察は、これまでの研究で実績のあるSi基板上で実施した。吸着過程の観察において、前駆体分子の飽和吸着が見られ、ラングミュア型の吸着過程を取ることが見いだされた。また、そこから室温酸化鉄原子層堆積プロセス設計のための、前駆体の導入量を算出することが出来た。さらに吸着した前駆体分子を反応観察チャンバーに設置した加湿アルゴンプラズマ酸化源によって酸化し、酸化過程の観察から酸化条件を抽出した。反応観察チャンバーを用いて、室温酸化鉄原子層堆積を行い、X線光電子分光によって評価を行った。この結果、Fe2p3/2の結合エネルギーよりFe2O3型の酸化鉄が形成されていることが確認された。今後、室温酸化鉄原子層堆積プロセスを行い、分光エリプソメトリーによる成長膜厚の算出、X線光電子分光による膜中不純物の評価、磁気特性の評価を行い、論文投稿と学会発表を行いたいと考えている。また、本研究では樹脂膜上での前駆体分子の吸着と酸化過程を多重内部反射型赤外吸収分光によって観察し、Si基板上とは挙動が異なることを見出している。本年度の研究ではアクリル樹脂膜上へのSiO2の堆積過程のその場観察を行い、得られた情報をもとに反応モデルを構築した。この成果は2019年3月に行われた第66回応用物理学会春季学術講演会において研究発表を行っている。本年度の研究から得られた知見をもとに、研究を継続し、室温原子層堆積によって生体親和性のあるTiO2コートと磁気特性が期待できるFe2O3コートを粉体に対して実施し、高精細トナーインク、MRI用造影剤、ドラッグデリバリー用コアシェル微粒子へ発展させたいと考えている。
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